今年は桜の季節が駆け足で行ってしまいました。
早く散ってしまった桜を惜しみつつ、
源氏物語絵巻から取ったこの表紙絵が印象的な文庫本白洲正子さんの『西行』です。
幹に対してちょっと桜の花房が大きすぎ、なんて写実的を言ってはいけません。
桜といえば西行の
「ねがわくは花のしたにて春死なむ そのきさらぎの望月の頃」
だけではありません、というのが白洲さんの読み解き。
漂泊、放浪の西行軌跡を歌に沿って追って自身も旅する。
京都から吉野、熊野、東海、みちのく、果ては四国まで旅の紀行文のような趣。
だけではなく、西行の心のひだに分け入るようなうたを次々と繰り出され
「世の中を捨てて捨てえぬ心地して 都離れぬ我身なりけり」
「行えなく月に心のすみすみて 果はいかにかならんとすらん」
西行が白洲さんに乗り移ったような鬼気迫る著書でもありました。
といっても白洲さんの文章はシンプルかつ端正で、味わい深くございました。
この著書をお書きになったのが、昭和ももう終わりという時代、ご本人78歳ころ。
そのこともわたしには感じ入ることです。