ストーリーは複雑ではないが、場面場面の切り替えも多く、やや専門的な説明が多方面にわたっているので、初めは戸惑う。しかし、誠実な文章が盛りだくさんな内容にもかかわらず読みやすく、初めての作家だったけど好感がもてた。
行きつ戻りつが最初面食らったが、読み進むうちに慣れ、例えば父親の釣りの趣味、北海道犬、天文、キリスト教、書物の歴史などなどの、むしろ読み手の知識がためされるように思った。
近年文学の中に知識を矯めるような、あるいは微に入り細を穿つような、文学は詩歌、叙情、思想、哲学、歴史だけではないというような作品に出会う。
明治から平成に至る北海道を中心に暮らした三代の家族物語。光を当てられるのがその一族それぞれのひとであって、ひとりの人物が主人公ではないというのも、人間それぞれの普遍をみつけ、描こうとしているように思う。日常に起こったり遭遇したり行動することのあくなき探求をしずしずとなさっている。