エンターテインメントだから、と言って進めてくれた人がいました。たしかにそんな風なところもあり、史実にも基づいている平安時代の物語は、よくできていておもしろかったです。
主人公藤原隆家という貴族のことは知りませんでしたが、藤原道長と叔父甥の関係とわかれば、なるほどと思います。平安中期、あの『枕草子』の清少納言や『源氏物語』の紫式部なども登場するのが、なお親しみがわくというものです。
藤原氏というのは権力争いを身内一族でやっていたのですね。その世界は『源氏物語』から『平家物語』までおなじみですね。
しかし、この物語はそれだけではなく異民族の日本襲来という、今日的な課題がもされている点が珍しくも面白くもあり、普遍性を醸し出していますね。そして主人公は藤原隆家という貴族らしからぬ、むしろ武士台頭の前兆のような人物像です。
ただ勇ましい人物や闘争のみでなく。葉室麟らしい情緒もたっぷり、空想も自由自在。わたしはこの一冊が葉室麟さんの作品では一番好きになりました。