認知症を患った高齢者とその家族の模様を通して、哀しみと追憶の日々を、穏やかな筆で描いております。
わたしたちの世代(70代後半)が親の世代(90代)を見るときこんなふうになるのでしょうか、自分たちも老いを自覚しているからわかるのでしょうか。
昭和の初めに日本が手を染めてしまった植民地政策の陰に翻弄された親たち、いい思い出も悪い思い出もあります。当時幼くて理解できなく、そんな親たちの喜びや苦労を見ようとしなかった世代に、はかない、ほのかな思い出がすこしずつ色付けされて迫ってくるのです。
なぜって
「認知症のステージが上がると記憶している時間が退行する。」
らしいのです
「八十年も九十年も生きた年寄りには、人生の後半生の方が記憶に残るはずなのに時間の近いその部分がごっそりと抜け落ちる。」
そうして
「遠い彼方の景色の方がはっきり残って見える奇妙。」
な現象が起こって、昔のことを喋ったり、叫んだり、夢見たりいたします。周りの人たちはおたおたします。でも見守っている子たちには幼い遠い昔を感じることができるのです。
村田喜代子さんの短編は「おもしろ、ほのぼの」しておりますが、長編になってもそこここで「ほのぼの、ほろり」とさせてくれます。