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やっぱり読書  おいのこぶみ

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2019年12月17日
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カテゴリ:読書メモ
新潮文庫の「松本清張傑作短編集(一)」は推理小説でもなく時代小説でもなく、現代小説をまとめたということです。昭和40年初版発行ですから、この文庫になさるとき、著者自身も存命で何らかのかかわりを持たれていたのではないか、ですから自信作ではないかと。今回その個々の作品を再読してみまして、たしかに清張さんの特徴が一番よく出ている作品群だなと思いました。

市井の研究家は努力してよくできれば怨まれるし、出自学歴によってさげすまれもし、いじめにも会い、世間の風は冷たい。

例えば​「石の骨」​
人骨化石を嵐の後の崖崩れから拾い、古代の研究をひそかにしているので知識豊富なれば、旧石器時代の人骨と確信し発表する。しかし発掘ではなく拾ったということで、中学教師だからということで、その発見者の名を学会という組織に横取りされる。
短編末尾、主人公の原稿文(少々長いですが、太字はわたし)​
くりかえして言うけれども、人骨は私自身が原地層から発掘したものでなかったために、一部の学会から深い疑惑の眼をもって見られた。その方々がご心配くださったように、この化石人骨は崖の上から転落したものでもなく、また波にのって打ちあげられたものでもない。崖の堆積層が前夜の風に崩れ落ち、それと同時にこの世の空気にさらされたものだということを、つよく申し上げておく。私は学者的良心をもって断じて噓は申し上げない。それでもなおかつ、認めていただけなければ、容れられる時期まで耐えるよりほかなはない―――
​そんなに悲痛に苦しまなくてもよいではないか「気楽に気楽に明るい面をとらえていこう」という考え方もあるだろう。けれども人はみな何かしらのコンプレックスを抱えているものだ。その心の闇が清張さんの小説をささえて普遍的な関心をよぶものにしている。

個人個人が一つの研究課題あるいは目的を持って活動に専心するには、他者との関係、その人の置かれた環境によって、理不尽も起これば、不遇も味わう、過酷な歩みであると。そのことが好きで努力して人より秀でても嫉妬を持たれるし、その環境が潤沢にあるわけではない。

その機微が名文となって短編に昇華されている。その作家が松本清張さん。
もちろん清張さんは身をもって苦労なさって、40歳というと年齢になってから作家として成功なさった方、もろもろの艱難を突き抜けた方というわけです。

他の収録されている短編は
​或る「小倉日記」伝 菊枕 火の記憶 断碑 笛壺 赤いくじ 父系の指 青のある断層 喪失 弱味 箱根心中​
どの作品にも苦しみうごめいている人々が文学的に描かれているのです。







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最終更新日  2019年12月18日 09時53分18秒
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