松本清張さんは社会派推理小説家と言われていますが、むしろ人間の飽くなき欲望は何に向かうかというところが強調されてる推理小説家と思います。
ですからこの
『人間水域』はまさにそれ。名誉欲に愛欲が絡み、それにはお金が介在します。そしてその名誉欲に駆られるのが女性二人ときたら、もうわかりますね。
人間は見た目が大事、ちょっと前の女性は若くて美しくないと価値がないとされていたころのこと、というか、今現在もそうかなぁ、純然たる芸術においてさえ、実力よりもみめ麗しくないと成功しないような世間で、女性水墨画家たちを取り囲む権力を持っている男性たちの欲望と画策。その中に正義派のような男性も登場しはしますが・・・。
すっきりした描き方の小説ばやりの現代、こんな風にねちねちとした描き方が泥臭いといえば言えますが、相変わらずおもしろいし、構成、文章もたくみです。けど似たのがなくもない作品です。だからか、この作品は清張さんの膨大な作品の中で、全集には入っていないようで、1970年初版、何回か文庫化されて、今回は祥伝社文庫でということでしょう。