カテゴリ:読書メモ
『書道教授』も併編されていて[黒の図説]という連作六編中の二編です。
時間を経て再読すると、ほとんど違う小説のような印象になるから不思議です。 『鴎外の婢』 『或る「小倉日記」伝』と同じにように、森鴎外の小倉での事象を追うという趣向です。 「或る...」の主人公田上耕作は薄幸な無名の物書きで、調べるのに大変苦労する(そこがこの短編の妙味)のに比べ、「鴎外の婢」の書き手浜村幸平はベテラン作家であり、気ままな手練れであり、取材の仕方がとても贅沢なのです。変われば変わるもんです。「耕作」が不自由な足で歩いて調べたのに、「幸平」は豪勢、歩かないでタクシーに乗って調べるまくるのですよ! また、「或る...」が本物の「小倉日記」が発見されてない時に苦労して事跡をたどる頑張りなのに、『鴎外の婢』は存在する「小倉日記」を参考にしながら生前の鴎外の様子を探る。それに鴎外のお手伝いさんのことを調べるという横道にもなりかねないようなしまつでもあります。 こうしてみると主人公の名前が田上耕作(こうさく)→浜村幸平(こうへい)なのも、なにやら意味がありそうです。『或る「小倉日記」伝』の初版1953年と『鴎外の婢』の1969年。人気作家となった清張さんの作品の時間経過なのでしょう。 『書道教授』 不倫は悪いことだ。気の小さい男がしてはいけない、必ずや失敗するという清張さんの得意パターン。今どきなんだかタイムリーな気もしますが、ミステリーでもあり、TVドラマになったものに迫力があったと記憶しています。 浮気の末、破滅する銀行員の男の周りには三人の女性(ホステス、妻、書道教授)が登場するのですが、その女性たちの三人三様の個性がなかなかよく描けていて、清張さんは女性が描けないという、わたしの思い込みを覆しました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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