カテゴリ:読書メモ
本のタイトルが意味深い。
書き手は30歳になろうとしている作家で、恋愛の盛夏の時を過ぎようとしている女性。恋愛にいつも戸惑い、失敗するのではないかとおびえている。男性との出会いにぎくしゃくし、ためらうのは子供時代に辛い性的虐待を受けていたから、そのことから立ち直れるのか、断ち切れるのか。 衝撃的なのは本の「自炊」に使う裁断機の登場。「自炊」というのは本をバラしてスキャン、電子データにして保存すること。その本をバラすときに背表紙を切断する道具。ちょうど事情があり謹慎中だった書き手「千紘」は祖父の遺した大量の書籍を、娘である母に頼まれてやることになる。 本という物を大切に思うものにとっては身を切られるようなことだ。まして「千紘」は作家である。このつらい作業を虚脱してか、あるいは身をさいなむようにして、祖父の遺した鎌倉の古民家で、夏の間続ける。同時に自分のトラウマをも断ち切りたいと苦闘すように、祖父のだった書斎作業場へ、男性を次々と招じ入れ奔放に恋愛に耽る行動をとる。時が過ぎていくままにやがて変化が。本の裁断をする作家という、気狂いにも似た行為に意味があるとしたら何だろう。 女性の心理を只々わかってないと声高に言うのではなく、あたかも自身の性格のように扱いながらも他者との関わりからくるもの、男性遍歴のように積極的に挑んでいるようでも、おびえて模索している微妙な心理を描き、今回も昔に読んだフランス文学を彷彿させた。 続編「秋の通り雨」「冬の沈黙」「春の結論」を書き下ろし付け加えたのが、なお「夏の裁断」を光らせているかと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020年03月04日 13時14分50秒
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