カテゴリ:読書メモ
離婚した佐藤愛子が母シナと老耄になってしまった紅緑を看取り、血は争えず小説家になろうとする。かたやサトウハチローという異母兄はあんなに美しい詩を醸すのに、ケチで下劣で最低男なんだと、愛子に聞こえてくる。ハチローの妻や子たちの尋常ならざる生きざまを知り、自身の再婚相手にはこれまた、けたはずれの借金に悩まされる運命。
観察者(語り手・作者)兼中心人物愛子が老境になり、紅緑ハチローのかかわった女たち、紅緑の孫子たちの運命を見定めていく、圧巻だった。 若い頃の私は紅緑の小説を造り物だと批判しハチローの詩を噓つきの詩だと軽蔑していた。だが『血脈』を書くにつれてだんだんわかってきた。欲望に流された紅緑も本当の紅緑なら、情熱こめて理想を謳った紅緑も本当であることが。ハチローのエゴイズムには無邪気でナイーブな感情が背中合わせになっていたことも。・・・・・・この始末に負えない血に引きずられて死んでいった私の一族への何ともいえない辛い哀しい愛が湧き出・・・世間の誰もが理解しなくてもこの私だけがわかる。我がはらからよ。 この著者のあとがきは秀逸である。読む者にとても響き『血脈』を書きたかった著者の胸中がわかるのである。 これでもかこれでもかの波乱万丈人生模様。「自己中」のようで「鼻持ちならない」と読み捨てられないおもしろさ。平易な文章なのに誰でも書けるかというと、書けやしまい軽妙さ、やはり才能だなあ。 というか、愛子さんの生まれ育った阪神間の土地風土に関係あるかと。 「阪神間」、関東人のわたしには土地的には漠然としているが、文学ではおおいに出てくるので理解はできる。「風がちがうのよ」と須賀敦子さんは言ったそう。谷崎潤一郎『細雪』の時代と世界も思い出す。 文学でもなくても、わたしのそこ出身の友人たちの言動、立ち居振る舞いは、良くも悪くも独特で、どぎもをぬかれた経験がある。今思うとおもしろくもなつかしい、いい異文化経験だったと。違うものには新鮮味、深い興味とを感じる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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