カテゴリ:読書メモ
藤沢周平さんの初期短編作品には圧倒されます。発表順に言えば1.「溟い海」2.「囮」3.「黒い縄」と次々と直木賞候補になる作品を書かれ、4.「暗殺の年輪」でついに直木賞というラインアップ。言い方は悪いけど、手練れないまえの力のこもった作品がいい、好きですね。 収録順に 「黒い縄」 若くして夫に先立たれたり、事情で離婚したばかりの女性は、何故か男性の目に留まるような魅力をかもすらしいのです。そんな女性は男性を相談相手にしてはいけない、まして憎からず思っている相手にはですねえ。決して幸せな結果にはならないんですから、という見本みたいな一遍。しかもどんでん返しミステリー。 「暗殺の年輪」 「海坂藩」発祥の地、もとい発祥の譚。武士のおきてに逆らえない苦しみと瀬戸際の解放。 「ただ一撃」 わたくしが藤沢周平さんの作品をいいなあと思ったきっかけは、『三屋清左衛門残日禄』もう30年近く前の話です。まさしくこの短編が発展したものと思ってしまいますね。 「溟い海」 葛飾北斎の晩年の芸術的苦しみによせて、作家自身の模索がわかるような気がして痛ましい。でもこれらの短編によって世に出たのであるから。 「囮」 殺人犯人が逃亡中に別れた恋人に会うだろうと張り込む岡っ引の手下。江戸時代の下っ引を刑事に変えれば、ちょっと松本清張さんの短編「張り込み」を思い出すが、ひとひねりもふたひねりも奥深い。 感想にも力がこもってしまいます。山本周五郎とはまた微妙に違った文章のうまさと筋立て。作家にとって「ここから」というこの短編集は読者にとっても重要なのです。早く読めばよかった。
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[読書メモ] カテゴリの最新記事
|
|