あの頃(1980年代)の雰囲気が漂う小説ですね、女性たちが「妻」であることに憤懣や、やるせなさを思いながら、思い切っての飛翔は怖いとグラグラふにゃふにゃしている。つまり「妻たちの思秋期」や「翔ぶのが怖い」という言葉が流行りましたね。
そのことを上品に(おぼろげに)かつ果敢に表したファンタジー小説かと。神話の天智天皇、天武天、皇額田女王の世界に題材をとりながら、隣家の男兄弟と兄を失い家付き娘となって婿を迎えた女性とのご近所での恋愛模様。それは神話の世界にもあるし、『嵐が丘』にもあるし、古典的なみやびの世界でもあるので「谷崎潤一郎賞」というのもむべなるかな。
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「秘蔵本にしようかな」
ある読書好きからいただいてきたこの本は、未読のまま永らくしまってあったのです。いよいよ読もうと、箱から取り出して蠟紙をはがしたらなんと贅沢な装丁とおどろきました。
まるで紬のようなえんじ色布が表紙に貼ってあって、とても凝ってます。扉を開ければ藍色の中表紙と栞の紐も同色です。お値段は当時(1982年6月初版、83年1月8版)1300円、調べたら今はこの布だけでも1000円以上しますね。本がこういう風情があった時代が懐かしい。