このタイトルはうまいなあ。はッとさせられ、とても読みたくなった。話題の作家だそうだが未知の作家、読み始めて文章能力に感心する。
この短編集の最後に
「男の子になりたかった女の子になりたかった女の子」があり、それから読む。
単なるジェンダーギャップの話ではない。「気が付くのがゆっくりだったもどかしさ」「でも、そのほうがよかったかも」という思い、これからも気が行けばいいのよ、と。生まれたときにはひとりの人間個人と思っているはずなのに、知らずに作られていく自分に気づいたときの納得。男の子の格好をするのが「男の子になりたい女の子ではない」ということ。
11編、それぞれにいいけれども、特に
「ゼリーのエース」「向かい合わせの二つの部屋」「斧語り」が好きだ。
「向かい合わせの二つの部屋」
古い団地のお向かい同士の二人、漢字は違うがユキさんと呼ばれるふたり。片や20代のカップル、片や40代の女性ひとり暮らし。この二人の暮らしはTVドラマや雑誌やわたしたちが見聞きするものそっくり、つまりカップルはトレンディで、ひとり暮らし女性はクロワッサン記事で、色々あって結局、二人は自分のオリジナルで生きていく、ああ、そうなるよね。なのに味が出ているこの味はなんだろう。