カテゴリ:読書メモ
紀伊大島の網元のわがまま娘道子は、19歳の青春を出自のことで悩み、その思いに浸っていた、というプロローグ。太平洋に面した大島の風荒い気候風土の描写がいい(「大島」)、そして大島対岸の串本古座に話が進む(「聖餐」)。
うん?紀伊大島? 「ここは串本 向かいは大島 仲を取り持つ 巡行船・・・」 わたしでも知ってる有名な宴会歌「串本節」の島、有名な潮岬、行ってみたい旅先でもあるし、気候風土を読むには趣があるが、ストーリー展開がさすが中上健次節、とてもとても濃いものであった。 「大島」の章、まず最初は道子という女性(というより娘)の描き方に「そんな風に描いてはセクハラっぽい」などと辟易した。しかし「自分はどこからきたんだろう、何なんだろう」と悩む姿は青春永遠のテーマであって、殻(島)を飛び出す道筋には圧倒される。 二章「聖餐」の方が長い。対岸の地で出奔した母親の跡姿を追っていくのだが、そこは「路地」という場所で、よそ者の道子は複雑な関係に巻き込まれるとになり、中上健次のテーマ、被差別部落や複雑な血縁関係が描かれる。悪徳と思われる展開なのだが、むしろ闇の中の真実に昇華されていくのがあらためてすごい文才だと思った次第。 ここは串本 向かいは大島 こののんびりした雰囲気がぶっ飛んだ読後であった。 中上健次集(8) 紀伊物語 [ 中上健次 ] わたしはたまたま初版の単行本を持っていたのだけど、この本高いですね 古本がありました↓ 【中古】 紀伊物語 集英社文庫/中上健次【著】 【中古】afb お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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