『奴隷小説』桐野夏生
文庫本になってから読む利点は解説があるから、それがいいのか、邪魔なのか。
この文庫版の政治学者白井聡の解説は、なるほどなあと思う。桐野夏生さんの作品が現代の(平成の)新しいプロレタリア文学ではないか、というところはおもしろい。
ここに集められている7短編は、何かに隷属させられて藻掻くか、打ち破れる人間たちだ。現代見聞きするありがちな事情あり、昔の時代にさかのぼったのや、もっとおとぎ話的なのもあるが、それぞれが救われないどうしようもない状態なのは一緒で、作者は怒りに満ちて描いている。
デストピアの世界といっても、人間たちが構成している世界だから、そこに矛盾が生じるのは当たり前、前向きに、個人の努力で、なんて言うのんきさからくる希望のかけらもないのである。
作者の小説はいつも「放っぽりぱなし」の結びなのだが、ことさらこの短編たちは途切れて、漂ってしまうようだ、令和の世に。