『砂の女』安部公房
上梓された1960年代よりも、1980年代に再見された安部公房氏の作品、カフカの『城』を思い起こすシュールな作品という斎藤美奈子氏の解説(『日本の同時代小説』岩波新書)にうなづく。
「塔の高みか砂漏斗の底か」というのは私見。読了前作『パルムの僧院』との対比なればの感想。つまり、ファブリスは塔の上で、『砂の女』の男(名前は仁木順平)は砂にうずもれるあばら家で自己の自我をみつめ、他者(女性や身近な人々)との関わりにあれこれ悩むのだから。
1980年代ならず、2023年代の今も古びていない、自我自意識と他者、共同体との闘い。(と言ってしまっては古臭いかも)他者他人とうまくやっていくのに、どうしこんなに苦労するのか、という古今東西共通の悩みは、時代が経っても、日本の最近の小説のように優しい文章になっても、変わらない。わたしなどはこういう硬質な文章のほうがしっくりするのかもしれない。
ドナルド・キーン解説「われら20世紀の人間が誇るべき小説の一つである。」
なるほど、20数か国に翻訳され、一時はノーベル文学賞もといわれた、というのも納得。