大岡昇平『事件』
定評のある大御所の有名な裁判もの。
大岡昇平の推理小説は『最初の目撃者』を読んで、洒落ているなあと思った記憶がある。
最初は新聞連載小説で4回も手入れしたそうだから、作者も力を入れた作品。
裁判の場面はもっとさらりとする予定が書いていくうちに、裁判所という仕組みを前面に据えることになったという。
裁判の進行や法律用語などちょっとめんどくさい描写もあるが、ぐいぐいと読ませる。
若者の殺人事件が、法廷における弁護士の活躍で、意外な事実がわかってくるという、サスペンスの面白さ。
時代は高度成長期、東京圏郊外に広がる都市化の波に洗われる土地柄。一時代を追憶するだけではなく、人として、成長して生きていくとは?という普遍性。
新聞小説の時は『若草物語』というタイトルだったそうだが、被告の主人公と恋人、その被害者姉が幼なじみであるという設定がこの作品に奥行きを醸す。若さゆえの憂愁。だから、自転車の相乗り(その時代も今もルール違反だね)というキーワードが光ると思う。