『十二単を着た悪魔』内館牧子
源氏物語にワープしてしまった若者といえば、
光源氏の関係者の
頭中将か、源氏付き人の
惟光の近辺にいる人にするのか、と想像するのは平凡。陰陽師を持ってきた作者の発想は、ヒロインが
弘徽殿女御であるからなるほどと思う。
なにしろ弘徽殿女御は超オカルトチックに、政的の恋人に憑りついて殺人までするのだから、陰陽師という現代から見るといかがわしくも怪しい職業なのでさもありなんと、一応は源氏物語を知っているのでわくわくする。
その若者
「雷」君はトリップする前に現代社会では、大学卒業したけれど受けた全社落ち、フリーターになってしまい、行き場を探している青年というわけで、古文の文芸の世界で何を得るのかが興深い。
このエンターテインメントが幕開は、
雷青年の現世では兄が容姿端麗・頭脳明晰とちょうど光源氏のようで、光源氏の兄に当たる弘徽殿女御の息子
一宮という、皇太子候補なのに影薄い君に味方するのは、出来すぎの兄弟を持ったよしみで、同情したので助けることになった。
源氏物語の筋をたどり、そう来るかと、むふふふと作者の機知を楽しんだ。
けれど、
あれぇ?須磨の巻までなの?
落ちがそれ!と思いがけなくて、脱落したのでありましたが。