『坊っちゃん』夏目漱石(新潮文庫)
いまさらながら言うが面白さといい、構成といいよく出来た傑作、夏目漱石の「坊ちゃん」。昔読んで印象に残っていた場面は、布団に入れられたバッタでへいこうした坊ちゃん先生が生徒たちの「そりゃ、イナゴぞな、なもし」でぎゃふんとなったところ。かけあいがたまらん。再読してみて、ユーモラスな新任先生騒動記だけれど、読み方いろいろ今回は「赤シャツ」が気になった。坊ちゃん先生をいろいろ親切にしてくれると思いきや、ずるい策士であった。やさしい声でのここちいい話の裏にはたくらみがあった。これは坊ちゃん先生でなくても経験する。とくに入学、入社、入院、引越しで新天地に入った時。やけに親切にすりよってくるひとには注意。後で必ずわけがある。しかし、みぎもひだりもわからない時教えてくれるひとは有難く、ついほだされる。こういう私めも、かずかずのほろ苦い思いをしているので笑ってしまった。「坊ちゃん」の最終章、一本気の坊ちゃん先生、そういう「やから」をやっつけてしまうカタルシスがあるのだが、結局職を失うという痛みがあるのである。