『バラカ』(上下)桐野夏生
背景は東日本大震災の直前と震災、震災後6年経って(まさに今、2019年)、そしてもっと未来、先取りの物語です。作者が執筆したのは東日本大震災の直後です。あの頃は世の中も文学もどうなるのかという衝撃でした。過ぎてみればそこで世界が止まるわけでもでもなかったのですけど。この「バラカ」というヒロインが日系ブラジル人の少女の成長物語のストーリーは、現実よりも福島の放射能被害が広範囲に深刻になっていて、というデストピアの世界。「えっ!そんなぁ~」と思いますが「もしかしてほんとうはそうなのでは」と思わせられてしまう怖さもあります。日系人の両親が日本に働きに来て貧困に陥り、他の国に脱出するもうまくいかず、ついに娘を人身売買に出してしまうのです。日本人の女性の養子になるも、日本に連れてこられて、東日本大震災に巻き込まれて苦労連続の放の旅をするのです。救いは「バラカ」が巫女的に直観力があって、しかも賢くて・・・というスーパーヒーローだからいいんです。この節はそういう運びになる物語も多いです。少し前の世の中は「夢よ羽ばたけ、先に希望がある」でした。今は「なんとなくわかっている、これ以上変わりようがないのでは?」です。そんな世界を描くのには何を糧にすればよいのか!文学の普遍性は未来予想の面もありますから。