|
カテゴリ:読書日記
14年前、ばななさんが漢字の「吉本」だったころに書かれた短編「とかげ」をリライトした作品。 小説「とかげ」がやさしく、濃く、人間らしくなった感じ。 「とかげ」の硬質な暗さはそれとしてとても魅力的だったけれど、「ひとかげ」は暗さの中に生まれるあたたかい灯を大切に描いている。 「とかげ」では行間に漂っていたことばたちが、「ひとかげ」ではしっかりと書き込まれ、実体のある言葉に。 そして、主人公とかげは、悩みも迷いも増え、けれど仕事や人生にまっすぐ、真摯に向き合うようになっている。 語り手の「私」ととかげが切実に愛し合うようになるわけも、「とかげ」よりすっと納得がいく。 「私」の勤め先で働く川村さんの描写のところで、「ばななさんは世界と誠実に向き合い、人生の酸いも甘いも受け入れ、いろいろな立場から人をみるようになったのだなあ」ということがわかり、ぐっときた。 作家として成熟するということは、人間として寛容になることなのかもしれない。 原マスミ画伯の絵が、何とも言えずよい。 物語全体を照らすたいまつのようだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[読書日記] カテゴリの最新記事
|