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本読みのひとりごと

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読むこと、書くことが大好きなbiscuitです。
夫、元気すぎる2人の息子と4人暮らし。

新聞記者を経て、フリーランスライター/エディターに。

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biscuit5750@ Re[1]:木々との対話(09/12) >micoさん こんにちは!すっかりご無沙汰…
mico@ Re:木々との対話(09/12) bisさん、こんにちは。まずは次男くんのご…
biscuit5750@ Re[1]:さようなら、クウネルくん(01/27) >micoさん お久しぶりです! コメントを…
mico@ Re:さようなら、クウネルくん(01/27) クウネル。新装された表紙を見てお別れし…
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2006.10.08
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カテゴリ:読書日記
舞台を観てきました。
二兎社「書く女」、世田谷パブリックシアター。
作・演出はもちろん永井愛。
主演、樋口一葉役に寺島しのぶ。
一葉の師、半井桃水に筒井道隆。

結論から先に書いちゃいますが、ものすごくよかった。
現代の「書く女」、あるいは日本文学を愛する方、必見の名舞台です。
短命な女流作家の生きざまに涙が…などという次元ではない。
個人的な思い入れも重なった。
頭をがーんとぶん殴られて、ちょっと人生観が変わるくらいすごかった。

舞台装置も、よかった。
上下左右に立体的で、シンプル。
脚本と役者の要求に合わせ、あらゆる場を立ち上げる懐の深さがあった。
劇場も、2階、3階席はかなり窮屈だったけれど、想像力をかきたてるつくり。
子供向けの芝居なんかやると、いいかもしれない。

以下、芝居の内容に触れます。
これからご覧になる方は、どうか、また観劇の後にお読みになってくださいね。
田辺聖子の「一葉の恋」をお読みになってから観ると、芝居のおもしろさが何倍にもなるかと思います。



寺島しのぶは、悩みに悩んだ末、何かが吹っ切れて突き抜けたらしい、すばらしい芝居をしていた。
取り憑かれたような、迷いなき芝居。
竹を割ったようで、見ていて気持ちよかった。
映画「やわらかい生活」でも息をのんだが、舞台で観るとやはり迫力が違う。
3階席から見下ろしていて、ほとんど顔は見えないのに、なぜか表情がわかる。

最初のシーン、一葉が初めて桃水の家を訪れるところから、3年後のラストにかけて、一葉がみるみる変化してゆく様は圧巻。
書くことで、彼女は全身から異様なほどの色気を発し、発しながら同時に恋を失っていく。

永井愛がテーマとした「厭う恋」。
捨てて捨てて捨て去ったところに何が残るか。
桃水への断ちがたい想いを、書いて書いて書きまくる生活の中で昇華していく一葉。

一葉が桃水の蟄居を訪れるとき、いつも降りしきる細かい雨。
雨が降ると、世界はゆっくり、緩慢に狭まって、ふたりは彼らだけの生あたたかい宇宙に閉じ込められてゆく。
そしてあの有名な「泊まっていきなさい」の場面。
ぎりぎりのところで、一葉は桃水の手を振りほどく。

一葉にはわかっている。
桃水には、自分のように、後世に残ってゆくものを書く才能がない。
小説家としては、もう利用する価値がない。
夫にするほどの甲斐性もない。世間の事情もそれをゆるさない。
あるとすればただ、この恋心。
この恋心さえも踏み台にして、自分は小説を書くのだと一葉は悟っている。
日本の文学は長いあいだ、この成就してはならない「厭う恋」の、ぎりぎりの境目を頂点にして歩いてきたのだ。

折しも、外は雪。
雪が降ると、愛しいひとに逢いたくなるのが人間の性であるらしい。
冷たい雪に煽られて一層燃え上がる恋心を、一葉は「雪の日」という美しい小説に仕立てる。



じっと舞台を見つめながら、だんだん、一葉と自分の境目がわからなくなる。
叶わない恋をどうやって昇華させるか。
何も持ち物のない、まだ成熟した女性にもなっていなかったわたしには、書くこと以外なかった。
わたしは書きに書いた。
そして厭う恋はたしかに、書いたものの中に消えた。
いつの間にか大人になり、もう、あんな死にもの狂いの恋をすることもなくなった。

では、その後は?
その後、一葉は何を書くのだ?
病に倒れなかったら、わたしの年になった一葉は、一体何を書いてゆくのだ?
この、前も後ろも定かではない世の中で、若い女性が生きる道を指し示すとでも?

死に瀕した一葉は、ひとりの部屋で、ゆっくり、ゆっくり、墨を擦る。
(後で一葉全集で写真を見たら、文机まで一葉が本当に使っていたものそっくりに再現していた。小道具の執念)
魂を削るように、命を刻み付けるようにして、一葉は書く。
彼女はおそれない。
一葉には、書くべき言葉があるから。
そして彼女は、「書く女」たちは言うのだ。
何度でも、繰り返し。
全財産を失っても、愛する男を失っても、ひょっとしたら命を失っても。


さあ。次は、何を書こうか。







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Last updated  2006.10.09 23:06:57
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