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カテゴリ:読書日記
「最近、何かおすすめの本はある?」と文化的上司さまに聞かれた。
これはわたしにとって(ごく個人的な意味で)、ソムリエが「今夜、おすすめのワインはある?」と質問されたのと同じことをあらわす。 頭のなかの本棚に「最近のおすすめ」というスペースがあって、そこには常に、おおよそ100冊くらいのタイトルがストックされているので、相手の年齢や性別、好み、今日の気分、湿度に天気、時間帯によって素早く検索をかけ、いちばん望ましいと思われる1冊をていねいに差し出す。 しかも今日の相手は、わたしなど足元にも及ばない、本とブンガクのプロ。 ありきたりの本では眉ひとつ動かしてもらえないはず。さて、どうするか。 …と、いう局面で選んだのが、これ。 石田千「踏切趣味」。 まず題名が、文化的上司さまの歓心をさそった。 「踏切って、あの鉄道の?へええ」 石田さんは俳人で、「踏切趣味」は、踏切のある下町の風景を集めた随筆集。 俳人らしく、文章は決して長くないけれど、ひとつひとつの言葉がていねいに選んであって、とても心地いい。 出版は筑摩で、装幀もすてきで…などということを、拙い舌で一生けんめい力説する。 興味をもってもらえたらうれしいな、と思いつつ、家に帰って自分でも「踏切趣味」を開いてみる。 やっぱりいいなあ。本当にいい。 最近出た「屋上がえり」も買おう。 と心に決めて次の日、会社へ行ったら、上司さまの手に「踏切趣味」が! 聞けば会社の帰りみち、さっそく買って読んだそう。 石田さんが嵐山光三郎氏の助手で、文体もどことなく似ていること、装幀が菊地信義氏という有名な装幀家の手によるものであること、など、わたしがちゃんと見ていなかった奥付の情報まで、すばやく目をつけていらっしゃる。さすが。 「わざと言葉数を少なく、ぽつ、ぽつと置いていくような文章がいい味」と喜んでいただきました。 文中に登場する石田さんのお仲間の俳人や文人のことも、さすが文化的上司さま、よく知っておられて、話が弾む。 ふふ。うれしい。楽しい。 ソムリエ冥利につきる。 腕を磨くため、今夜もせっせとページをめくるのであります。 修行、修行!…にしてはちょっと、楽しすぎるか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.11.30 22:14:47
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