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カテゴリ:読書日記
「物語の役割」を読む。 小川洋子さんの、物語にまつわる講演を集めた本。 小川さんがライフワークのひとつにしているホロコースト文学のことや、「博士の愛した数式」を書くときに取材した数学の美しさのこと。それに、「書く」ということについて小川さんが日ごろ考えていることがたっぷり読める。 講演はもちろん、講演会場で聞くのがいちばんいいのだけれど(言葉が体に吸収されるので)、話し言葉を活字で「読む」というのが、わたしはけっこう好き。 対談集を読み込んでいる時期に誰かと話していて、対談に登場する人の口調でしゃべっている自分に気づくこともある。 アンネの日記やホロコーストについて触れた部分で、 現実を受け入れるために、人は物語を作る。 現実を苦しみに満ちた物語に変え、その棘で流した血の中から新たな生き方を見いだす。 というようなことをおっしゃっているのがとても印象的だった。 物語は書物の中だけにあるのではない。 わたしたちは日常的に物語をつくり、あるいは物語に生きているんだ、きっと。 物語に救われたり、深く傷つけられたりしながら、それでも物語と共に暮らしている。 だいたい、わたしがここに居て、本を読んだり眠ったりしていること自体、物語でないと誰が言い切れるだろう? 小説家は人類のいちばん後ろを歩いている、という文章も心に残った。 列のいちばん後ろにつき、誰もが顧みないような落とし物を収拾して歩いているのだそう。 なくなっても一見誰も困らない、でも人間の尊厳に関わる重要な仕事だ。すてき。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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