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カテゴリ:読書日記
「私的生活」、乃里子と剛のその後。 乃里子はすっかり大人びて、ブリジット・バルドーをお手本に、野良猫みたいな「一人住みの幸福」をしっとり、奔放に生きている。 美しい女の友人とごはんを食べる時間も、ひとり軽井沢のホテルで猫足のバスタブに身体を沈める時間も、わたしにとっては恋、と乃里子が言い切る場面で、本のページに向かって、それから紙の向こうにいる田辺さんに向かって、「うんうんうん…」と深く頷く。 こんな大事なこと、田辺さんはわたしが幼稚園に通う前に、とっくに書いてくれていたのだ。もっと早く読んでいれば! いろいろな間違いが防げたかもしれないのに(?) それから、「やさしい声を出す機械」のこと。 女が男に、男が女に対して持っているその機械は、いったん壊れるともう修繕できない…という描写。 なんてすばらしい比喩なんだ! そうそう、そうなんだよ。 あの機械が発動しない、やさしい声を出せなくなった相手とは、もう恋人でいられない。 自分がやさしい声を出せなくなってみて初めて、「ああ、もうだめなのか」と悲しく気づくこともある。 (結婚というのはもしかしたら、やさしい声を出す機械が壊れてから本番が始まるのかもしれない、と今ふと思った。) 乃里子と剛の会話も軽妙なだけじゃなく、ますます味わい深くなって、「乃里子はこのまま、独りの自由を愉しんでいくのかな…」と思っていたら、最後にどんでん返し。 背すじがぞくっとするような寂しさを味わう。 ふたりでいる不自由。ひとりでいる孤独。人生は苦い。 煙草なんか吸わなくても、お酒なんか飲まなくても、十分に。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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