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カテゴリ:読書日記
図書館で長いこと予約待ちをして、ようやく順番が回ってきた本。 なので、ページを開く感慨もひとしお。 一つ目の短編「器を探して」を読みきって、驚く。 これ、本当に森絵都さんの小説?「宇宙のみなしご」の?「永遠の出口」の?「リズム」の?「DIVE!!」の? 行間から匂いたつ官能。そして働く女の意地。あっけにとられる意外な結末。 森さんが大人向けの物語を書くと、こんなふうになるのか…とさらに読み進める。 読み進めながら、どんどん訳がわからなくなる。 まるで全部別の作家が書いたみたい。 筋書きも、空気感も、文章の密度まで、短編ごとに全然違うのだ。 それでいて、ひとつずつに読者を惹きつける不思議な魅力がある。 げらげら笑ったり、しみじみと涙ぐんだり。 どうやら、何かひとつの対象(主に仕事)に向かって、ひたむきに前向きに打ち込む人を主人公に据えた物語群なのだ、ということだけは漠然とわかってくる。 そして、最後に置かれた表題作「風に舞いあがるビニールシート」で、心臓を射抜かれる。 国連難民高等弁務官事務所で働く里佳。その「元」夫で、アメリカ人のエド。 エドはフィールド、つまり世界中の難民キャンプを飛び回っていて、ほとんど日本に帰ってくることもない…という設定。 途中からわたし、何度も嗚咽して、本を開いていられなくなるほどでした。 もしこの小説が直木賞をとっていなかったら、直木賞なんていっそなくしてしまった方がいい!(…と、いうのはさすがに言いすぎか。そもそも、わたしはこういうストーリーにめっぽう弱いのだ。「風に立つライオン」とか。しかし削らずに残してしまう) 圧倒的な筆力。構成力。取材力。リアリティ。それから愛。 図書館で借りるなんてケチなこと言ってないで、去年出たときにすぐ買えばよかった、こんなことなら! 手元に置いて、何度でも読み返そう。そして、里佳とエドに勇気をもらうんだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.07.03 14:50:44
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