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カテゴリ:読書日記
大江健三郎「日常生活の冒険」を読む。
昔読んだいくつかのエッセイで、大江さんの文章は難しいという先入観を持っていたのだけれど、この小説は読みやすかった。 わたしはつるんとした簡明な文章を書くのが好きだし、そういう作家の書きものも好むけれど、大江さんの文章はちがう。 ざらざらした手ざわり。繰り返し現れる引っかかり。 「つるん」が書けなくてざらざらしているのと、「つるん」はもちろん書けるけれど、そこを通り過ぎ、あえて手ごたえのある文章を書くのとでは、全然意味が違う。 大江さんが天才なのは、たぶん後者の意味において、なのだろう。 構成にも圧倒される。 よくある小説の型を、わざと壊すような手法。 ような、というより、明らかにわざと壊しているのだ。 冒頭と終わりの方に同じ絵はがきの文面が出てくるのだけれど、小説を読む前と後でこんなにも印象がちがうのか、と驚かされる。 驚くばかりか、読者である自分自身の変化を自覚させられる。 最後の1行を読み終え、付せんがびらびらぶら下がった本を閉じて、ため息。 小説を読んで、こういう種類の快楽を味わったのはひさしぶりだ。 作者と一緒に物語の舟に乗って運ばれていくのではなく、物語の世界を掌握し、運んでいく作者の力量に酔う。 ドストエフスキーを読むときに感じる心地よさに、これは似ているな。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.03.01 23:05:12
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