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カテゴリ:花嫁日記
出発の日。
朝、遅く目を覚ましたら父はもう出かけていて、携帯にメールが来ていた。 気をつけて。くまくんにちゃんとあいさつしなさい。 これから長い人生よろしく、とね 涙がこぼれないように、大きく深呼吸する。 午後、東京駅へ。母と妹が近所のバス停まで見送ってくれる。 泣きたくなると困るから、と東京駅までの見送りを断ったのに、新幹線に乗り込んだらやっぱり涙が止まらない。 電車が動き出してしばらく経ってから、崩れ落ちないように壁や背もたれにつかまって、ようやく指定されたシートに沈み込む。 ぬぐってもぬぐっても何かを洗うように流れてくるので、途中からあきらめて流れるままにする。 窓側の席をとってよかった。 泣きすぎて頭がぼうっとし、自分がどうして泣いていたのかも思い出せなくなって、ようやく涙が止まる。 そうこうするうち、あっという間に電車がわたしの新しい町に着き、扉が開いてホームへ吐き出される。 この電車は少し速く走りすぎる。こんな夜は特に。 ここへ来るときはいつも、ポケットに帰りの切符も持っていたけれど、今夜はない。 いま持っている片道切符を改札で手渡したら、わたしはもうどこへもゆかない、この町の人になる。 階段を一段ずつ、踏みしめてゆっくりとのぼる。 あと10段。5段。3段。あと、1段。 改札に迎えに来ていたくまが「よく来たね」と頷いて、わたしの大きなかばんを受け取ってくれる。違う温度の涙が、また流れてくる。 泣き腫らしたまぶたを、いい匂いのする秋の風がやさしく撫でて、通り過ぎてゆく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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