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カテゴリ:こころもよう
オーストラリアから帰ってきました。
荷解きや滞っていた手紙書きや、もろもろの仕事は残っているものの、昨年夏の入籍から始まった結婚にまつわる一連のイベントもこれでおしまい。 結婚式や旅行の思い出を宝物に、日常生活の冒険を乗り切ってゆこう。 旅の思い出は、例によって下のほうから順々に載せてゆくつもりなので、よろしければ写真とともにご覧ください。 * 成田空港から実家に戻り、留守中の郵便物など確認していたら、一枚の葉書が届いていた。 元上司の奥さまから、寒中見舞い。 昨年の初め、定年を間近に控えて病気がわかってからずっと闘病生活を続けておられた文化的上司さまが、年末、わたしの結婚式の1週間前に亡くなられたのです。 亡くなったときに報せは受けていたのだけれど、自分の身の上の慌ただしさにかまけて、「上司さまがいなくなってしまったなんて、嘘だ」という気持ちを宙ぶらりんにしたまま、年を越してしまった。 葉書には、葬儀は故人の意志により家族葬で済ませたこと、香典や供花を辞退すること、などがやわらかい文章で簡潔に記され、お世話になった人たちの健康と幸せを祈る言葉で結ばれていた。 なんて強いひとだろう、と思った。 かけがえのない人を亡くしてたった1ヶ月で、こんなに心のこもった文章をつづることができるなんて。 いつか家族の話を聞いたとき、自身について多くを語らなかった上司さまが「あれは強い女だから」と呟いていたことを思い出した。 もう一度読み返して、このひとと長い年月を共に過ごした上司さまは、とてもとても幸せだったのだな、と知った。 そうしたらもう涙が止まらなくなっていて、葉書をささげ持ったまま、膝頭にまぶたを押しつけて子どもみたいに泣いてしまった。 驚いたくまが、「どうしたんだよう」と言ってティッシュの箱と一緒に隣へ来てくれた。 文面を見た母は、「誰かが亡くなったことを知らせる寒中見舞いで、こんなに心にしみる文章は読んだことがないね」と言って、白い葉書をそっと胸に当てた。 上司さまと過ごした時間、話してくれたこと、声の感じ、果たせなかった約束、それらがいっぺんに胸にこみ上げて、おなかの底から泣く。 そうしてようやく、もう会えないんだ、ということが腑に落ちた。 上司さまが旅立って、いちばん辛い気持ちでいるはずの奥さまが書いた葉書で、わたしが救われるなんて。 何かできることだってあったはずなのに、恥ずかしい。 お見舞いに行ったとき、結婚の報告をしたら、顔を輝かせて手を握って喜んでくれた上司さま。 大きなあたたかい手だった。 一度でいいから、もう一度だけ向かい合ってお酒を飲んでおそばを食べてとりとめのない話をしたいと願うけれど、それは残されたもののわがままだ。 感謝の気持ちがあるのなら、あの日誓った通り、いつか上司さまが手に取りたくなるような本を書けるように、毎日一生けんめい生きてゆかなくちゃ。 いつまでもめそめそ泣いたりするのは、たぶん上司さまの意にそぐわない。 大切なひとが旅立つたび、胸の奥にひとつずつ透明な宝石が増えてゆく。 せめてこの宝物を曇らせないように、自分に恥じない生きかたをしよう。 さようなら。それからありがとうをたくさん、上司さまに届けてください。雪の神さま、どうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.01.16 09:12:10
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