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カテゴリ:読書日記
小川洋子「博士の本棚」読む。 小川洋子は小説も大好きだけれど、ていねいにつむがれた随筆もすごくいい。 図書館で借りた本なので、付箋をつけながら読み、何枚か付箋がたまったらノートに書き写しながら、また読みすすめる。 本は所有する喜びもあるが、一度きりと思ってていねいに読み、心に留まった一行を自分の手で書き写してみると、読み飛ばすだけのときは気づかなかった新しい発見がたくさんある。 「本について書かれた本」を読むのが、わたしはとても好き。 須賀敦子「本に読まれて」、川上弘美「大好きな本」、いまは長田弘「本という不思議」を読んでいる。 尊敬する作家がそばに置いているという本を探して読み、その本に紹介されているおすすめも読み…と、読書と思考が連鎖していくのが心地よい。 どこかでふいに読んでみたい本の題名を耳にしてしまったときのため、かばんにはいつも、読みたい本を書きとめるための小さなメモ帳をしまっている。 …リストばかり長くなって、読むスピードは全然追いつかないのだけれど。 「本についての本」にも、いわゆる書評集から、「本」について哲学的、あるいは歴史的に考察した文章までいろいろある。 「博士の本棚」は、小川洋子さんと愛する本たちの、ごく個人的で親密な関わりを扱っている。 本を読んで心をふるわせたことが、小説を書くことにどうつながってゆくか、その道すじも記されている。 小川洋子さんが「アンネの日記」に触発されて日記をつけ始めた、というエピソードを読んで、「そう言えば…」と自分のことを思い出した。 わたしも小学生のとき、アンネの日記に目をひらかれて、「もうひとりのわたし」に宛てて日記を書き始めた文学少女のひとりだった。 そういう女の子、探したら世界中にたくさんいるだろうな。 誰かに見せるためでなく、自分自身のために、身の回りの出来事や心の動きを記録する、という発想は、学校で教えられた「日記」の概念や手法とまるで違っていて、衝撃的だった。 その新しい考え方に夢中になるあまり、本棚の裏の不自由な生活に、ほのかな憧れを抱いたことさえある。 …大人になって、ホロコーストに関するわずかな知識を身につけた今では、それがどれほど子供っぽい想像か、アンネがどんな思いで白いページに文字を刻みつけたか、20年前よりは推しはかることができるようになったけれど。 「博士の本棚」の中で、わたしがいちばん好きなエピソード。 「博士の愛した数式」が縁で出会った数学者の先生と小川洋子さんが、先生が監修した理科と数学のミュージアムへ出かける。 ふたりはミュージアムの人のすすめで「素数ホッケー」というゲームをすることになるのだけど、そこで先生が気弱な少年のようにうなだれながら口にする言葉。 「いやあ、小川さんは小説の中で素数の好きな博士を描いたばかりで…僕はもう素数のことなんか忘れてしまって…困ったなあ…自信ないなあ」 今すぐ小説の主役になれそうな、すばらしい人物! もちろん、試合の結果は先生の圧勝だったそうです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.02.07 11:00:28
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