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カテゴリ:読書日記
角田光代「八日目の蝉」読む。 思わず抱き上げてしまった他人の子供を連れ、逃げて、逃げて、逃げる女の物語。 今まで読んだ角田光代の小説の中でいちばん面白かった。 夕食後に読みはじめ、「おやすみ」とくまが寝てしまってもやめられず、明日早いのに…と思いながらもやっぱりページをめくる手が止まらず、深夜までかけてひと息に読む。 読みながらひどく喉が渇いて、ごくごく水を飲む。 ああ、絶望的にわかる、希和子の気持ちが。 そして、「こんな気持ち、絶対わたしにしかわからない」と大勢の読者に思わせる小説って、まず外れなく面白い。 途中、いくつかの場所で感情移入しすぎて、ぐーっと落ち込みかける。 最後まで読めば救いがあると信じて、ひたすらページをめくる。 期待は裏切られず、ラスト、とてもよかった。本気で潜った作家にしか書けない言葉。 始めた物語を途中で放り出さず、きちんとふたを閉じるところにプロ魂を感じた。 希和子のしたことは法律にも人の道にも反する。たくさんの人を傷つけた。 でも、彼女の中で、それは筋の通ったひとつの物語だったんだ。 異常な物語に人々は好奇のまなざしを向け、石を投げる。 だけどほんとうは誰もが、それぞれ固有の、奇妙で異常な物語を生きている。 石を投げるのはそれが倫理に反するからじゃなく、誰かと比べることで、自分がまともだと安心したいから。 けれどどんな人も、最後には自分ひとりで、自分の物語を引き受けて生きてゆくことになるんだろう。希和子や、薫や、千草みたいに。 そしてその気になれば、この世界には、助けになるものがけっこうたくさん転がっている。 ありがたく使って、この変てこな自分で、最後まで生きてゆく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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