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カテゴリ:読書日記
医者から安静を言いわたされたのをいいことに、家のなかを夫にまかせ、寝床に本を持ちこんで昼寝ざんまい、読書三昧の日々。
川本三郎「東京暮らし」。 著者は映画評論家で、元新聞記者。 町あるきにひとり旅、映画や猫をテーマに、テンポよくつづられる随筆の数々。 ブリヂストン美術館について記された最初の一文を読み、このひとの文章好きだ、と直感する。肌にあう。しっくりくる。 古い町並みに古書店、古い日本語、大衆食堂。 年月を経たものの美、使い込まれたものの豊かさ。 映画も大好きな「珈琲時光」や「かもめ食堂」が紹介されていて、嬉しい気持ち。 「禁止事項を作る」という項があった。 よくある○×式の映画評論は引き受けない。 否定より肯定を批評の基本にする。 「僕」や「私」をできるだけ使わない。 「作家としての心の修羅は原稿用紙の中だけでいい」という一文に、びりびりとしびれる。 か、かっこいい… * 「東京暮らし」を読みながらずっと思い浮かべていたのは、昨年暮れに亡くなった文化的上司さまのこと。 ご存命なら川本氏と年齢も近い。 上司さまも古いものたちを愛していた。 滅びゆくもの、見捨てられたものの中に、新しさや美しさを見つけることを喜びにしておられた。 時々きらっと光るやさしいまなざし、ゆったりした語りくち。 思い出すと、日々のちっぽけな迷いや、嫉妬や、不安や、執着が、すうっと晴れていく。 時を経れば経るほど、胸の中で熟成されて、重みを増してゆく記憶たち。 ああ。なんて大きな贈りものをいただいたのだろう。 川本氏の書いたものを、これからたくさん読んでみようと思う。 上司さまの、うしろ姿をさがして。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.08.07 10:44:21
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