596051 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

本読みのひとりごと

本読みのひとりごと

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Free Space

読むこと、書くことが大好きなbiscuitです。
夫、元気すぎる2人の息子と4人暮らし。

新聞記者を経て、フリーランスライター/エディターに。

Profile

biscuit5750

biscuit5750

Comments

biscuit5750@ Re[1]:木々との対話(09/12) >micoさん こんにちは!すっかりご無沙汰…
mico@ Re:木々との対話(09/12) bisさん、こんにちは。まずは次男くんのご…
biscuit5750@ Re[1]:さようなら、クウネルくん(01/27) >micoさん お久しぶりです! コメントを…
mico@ Re:さようなら、クウネルくん(01/27) クウネル。新装された表紙を見てお別れし…
biscuit5750@ Re[3]:子どもを持つことの不自由と、自由(11/17) >バーソロミューさん お久しぶりです! …

Rakuten Card

Archives

2024.11
2024.10
2024.09
2024.08
2024.07

Category

2008.08.14
XML
カテゴリ:読書日記


町田康「告白」読む。
すさまじい吸引力。最初の三ページで完全に引っ張り込まれ、あとはもう最後のページまで、流れに身を任せてついてゆくしかない。
河内音頭に唄われる、「河内十人斬り」の城戸熊太郎が主人公。
熊太郎がなぜ谷弥五郎とともに村人十人を斬殺するに至ったか、少年時代以降の心の動きが、670ページにわたり徹底的に書き尽くされる。
とは言え描かれるのはあくまで熊太郎の思考なので、凄惨な印象は薄い。
「こんなことまで!」と思うような微細な心の動きも容赦なくつかまえて、すべて書き言葉に変える。
それでいて決してしつこさはなく、むしろ執拗な描写が心地いいリズムを作り出している。
読み手が「ちょっと疲れてきたな…」と感じる直前、そのことをまだ自分でも意識しないうちに、町田康独特のロックでうねりのある文章が挿入され、また小説の世界に引き戻される。

 *

犯罪の善悪とは別の次元で、加害者にも必ず何らかの「理由」がある。
…と、どんなに説明され頭で理解したつもりでも、以前はどこか腑に落ちない部分があった。
そんなこと言ったって、目の前に圧倒的な痛みと悲しみと不在がある。
それらを生み出したのは加害者の自分勝手で理不尽な暴力だ。
理由ってなんだ、そんなに大切なものなのか、と思っていた。

「告白」には、(フィクションとしての)ひとつの理由が提示されている。
調書に記すための、裁判で読み上げるためのものでない、本当に本物の理由は、犯罪を犯した彼や彼女の人生を一から洗い出し、思考を忠実にたどらなければ、きっとわからない。
嶽本野ばらも「タイマ」で似た主旨のことを書いていたっけ。
ふつうに考えれば、その作業には彼や彼女の人生と同じだけの時間がかかる。

けれどこの本の、最後のページを閉じるとき、「あ、腑に落ちた」と初めて思った。
熊太郎(本物ではなく、町田康が生み出した)にとっての理由が、すっと納得できた。
しつこいようだけれど、善悪の判断や感情とは別の部分で。

それは町田康が、ここまで入り込んで本当に戻ってこられるのか、というぎりぎりのところまで深く潜って書いているからだと思う。
あともう半歩でも踏み込めば二度と帰ってこられない、その崖っぷちでバランスをとりながら全力で、勘違いでなければたぶん、書き上げたら死んでもいいような気で書いている。

小説の力。というものを思い知らされる一冊だった。
圧巻。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2008.08.14 23:11:37
コメント(2) | コメントを書く
[読書日記] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.
X