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カテゴリ:読書日記
ひさしぶりに香水をつけた。
今日は一日家にいて、夫も帰らないから。 夫はアロマテラピーを嫌がらないが、香水が好きではない。 結婚してから、香水を使うことは滅多になくなった。 今朝、秋の気配を感じて、ふとこの香りを思い出した。 つけてみて、理由がわかった。 トップノートにジャスミンが混ざっている。 ジャスミンはどちらかと言えば夏の花。 それでもなぜか、ジャスミンの息苦しいような甘い香りをかぐと、わたしは秋を思う。 解放的というよりは静謐、日差しというよりは記憶の香り。 森茉莉の「貧乏サヴァラン」を読む。 (このひとの名はジャスミンの漢名だ) 東京、淡島にひとりで住まうマリアのご馳走は、ダイヤ氷。慎重にいれたリプトンのティーバッグ。ウェファース。英国のビスケット。卵料理に、薔薇の砂糖菓子。 独特の美意識と味覚によって選び抜かれた、目にも舌にもおいしいものたちが、次から次へ登場する。 読んでいるとおなかがすく…というよりも、何か恍惚としてくる。 王女の部屋の前に立って、その豪奢な調度品を見せてもらっているみたいだ。 料理と食べものについて書かれているのに、美と人生について読んでいるような心もちがする、ふしぎな随筆集。 小川洋子「余白の愛」。 耳を患い、夫に離婚を申し渡された「わたし」と、美しい指を持つ速記者「Y」の物語。 小川洋子さんの小説、特に初期の作品は、ほんとうにていねいに、一行も気を抜かず時間をかけてつむがれている。 一糸みだれぬ完璧な緊張感は、読むものに奇妙な安らぎをもたらす。 それは言葉に対する敬意と、徹底して均質な静寂によるものだろう。 この物語にも、ジャスミンの香りが登場する。 ジャスミンの白い花に囲まれて、眠りつづける少年。 それから、「Y」が「わたし」のために特別にブレンドしてもらった香水も。 詳しいことは書かれていないから、それはどんな香りだろう、と想像してみる。 柑橘系はオレンジスウィートではなく、より繊細なマンダリン、それに全体の香りをしっとりと深めるサンダルウッド、それからもちろん、ジャスミンがふんだんに入っていただろうと思う。 ジャスミンのアロマオイル お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.09.05 17:45:35
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