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カテゴリ:読書日記
舘野泉「ひまわりの海」を読む。 著者は世界的に有名なピアニスト。 2002年、フィンランドでの公演中に倒れ、後遺症で右半身に麻痺がのこる。 失意の時を経て、ステージに復活した著者が、音楽への思い、演奏のため訪れた北欧や世界各国での経験をつづった随筆集が「ひまわりの海」。 私が舘野氏の音楽を知ったのは、氏が左手での演奏をはじめた後だった。 CDを聴いてもYouTubeを見ても、「左手だけで弾いているなんてとても信じられない」というのが最初の感想。 「左手だけ」ということにとらわれなくなると、今度は彼の愛する北欧のしずけさが、澄んだ音の底からゆっくりと染み出してくる。 そして次には音だけが、過不足のない音の連なりだけが心をとらえ、満たしていくのを感じる。 ていねいにつづられたこのエッセイ集に満ちているのも、舘野氏の音楽と同じ、静かで美しく、芯のある空気感だ。 頭の中を言葉でいっぱいにして、しまいには自分の中に言葉があるのか、言葉の中に自分が在るのか(たぶん、こっちが正解)わからなくなってしまった私のような人間には、旋律を的確な言葉に置きかえ、やさしく語ってくれる舘野氏の文章が、その音楽と同様、じんわりと心にしみこんでくるように思う。 舘野氏は書く。 「…今感じているのは、音楽の喜びだけである。音楽がまたできる、指を通じて全身が、自分の全存在が楽器に触れ、聴いてくださる方々と、そしてこの世界と一体になっていく、その感覚だけである。(略)演奏をしている時には、片手で弾いていることさえ忘れている。充実した音楽表現ができているのに、どうして不足など感じることがあろう」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.11.19 13:09:21
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