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本読みのひとりごと

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読むこと、書くことが大好きなbiscuitです。
夫、元気すぎる2人の息子と4人暮らし。

新聞記者を経て、フリーランスライター/エディターに。

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biscuit5750@ Re[1]:木々との対話(09/12) >micoさん こんにちは!すっかりご無沙汰…
mico@ Re:木々との対話(09/12) bisさん、こんにちは。まずは次男くんのご…
biscuit5750@ Re[1]:さようなら、クウネルくん(01/27) >micoさん お久しぶりです! コメントを…
mico@ Re:さようなら、クウネルくん(01/27) クウネル。新装された表紙を見てお別れし…
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2008.11.20
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カテゴリ:読書日記
紅葉

秋。
公園を歩いて、体があたたまったらベンチに座り、本を読むのが晴れた日の日課。

 *

クレストブックス創刊十周年のアンソロジー「記憶に残っていること」読む。



新潮クレストブックスが十年間に刊行した短編集のなかから、堀江敏幸が選んだ十篇が収められている。
もともと、短編に豊かな実りの多いクレストブックスの中から、短編の名手が十篇を選びぬくというのだから、面白くないはずがない。
デザート盛り合わせ、いやいや、塩味も辛味も、苦味もあるからデギュスタシオンのような、ぜいたくなひと皿。
アリステア・マクラウドも、ジュンパ・ラヒリも、アンソニー・ドーアも、イーユン・リーも、みんな一冊の中に収まっているなんて夢のようだ。
世界の名人たちの作品には、それぞれ長編なみの深みと味わいがあり、ひとつ読み終えるごとに深い満足を得られる。

すぐれた短編には、かならず小さな引っかかりが用意されていて、最後まで読みとおせば、それが心に残るようになっている。
ふだんは意識することのない引っかかりだが、時を経て、ふとした拍子によみがえることがある。
日常の何気ないできごとや、流れてゆく感情が、以前に読んだ物語と呼応して、自分でも思いがけない記憶がずるずると引き上げられてくるのだ。
魚とりの網に引っかかってくる片方だけの長靴や、ほつれた海草のかたまりや、さびたキャンディの空き缶みたいに。

たとえばそれは、
デイヴィッド・ベズモーズギス「マッサージ療法士ロマン・バーマン」の冷えたアップルケーキ。
アンソニー・ドーア「もつれた糸」の手紙は、渡してはいけない相手に渡ってしまう。
アダム・ヘイズリット「献身的な愛」の靴箱は、姉弟のおだやかな暮らしの底にしずむ、絶対的な孤独の象徴だ。
ジュンパ・ラヒリ「ピルザダさんが食事に来たころ」の、こわれたカボチャランタン。少女はキャンディの甘さと共に、「不在とともに在る」ことを幼い心に刻みこむ。
イーユン・リー「あまりもの」で、林ばあさんが持ち歩く弁当箱。理不尽で、ときどき幸福なその人生は、冬の朝の空気みたいに、凛と澄んでさわやかだ。
アリステア・マクラウド「島」の舞台には、テーブルの形をした大きな岩がある。灯台を守って暮らす女の生を、たったひとつの恋が、はりつめた糸のようにまっすぐつらぬいている。

堀江氏の解説「人はなにかを失わずになにかを得ることはできない」の最後の一行を読み終えたところで、これはデギュスタシオン、テイスティングなどではなく、世界最高峰のフルコースだったのだなあ、と気づく仕掛けになっている。
手もとにおいて、節目ごとに読み返したい一冊。





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Last updated  2008.11.20 10:32:27
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