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カテゴリ:読書日記
ジュンパ・ラヒリ「見知らぬ場所」(新潮クレストブックス)を読む。 これまでインドとアメリカに絞られていた物語の舞台が世界中に広がり、主人公たちはローマへ、タイへ、縦横無尽に旅していく。ジュンパ・ラヒリ、新境地。 空間が広がり、時間軸が後の世代まで押しひろげられたことはまちがいないが、作者が扱うテーマの基本はあまり変わっていないという印象を受けた。 父、母、子、あるいは周りの環境の変化がもたらす微妙な「ゆらぎ」を、ジュンパ・ラヒリは彼女独特の視点で見つめ、切りとってみせる。 主人公たちは変化に抵抗したり、無理に飲み下そうとしてその苦さに顔をしかめたりする。 それでもいつか、ひょっとするといつの間にか、変化した家族や環境が、「現実」そのものに変わる日がくる。 変化に向かい合ったヒトの対応は「受け容れる」「拒絶する」という二者択一の単純な文法で語れるものではない。その、本来は言葉にできない心のうごきを、ジュンパ・ラヒリは小説の形式を借りてすくいとろうとしているようにみえる。 印象的なのは、終盤の連作。へーマとカウシクというどこにでもいる、しかし世界のどこにもいないひと組の男女が主人公だ。 舞台も、主人公も文体も異なるふたつの物語が交差して、そこからまたもうひとつの物語がはじまる。 物語が生まれる瞬間を目撃することのできる、稀有な短編集だ。 停電の夜に その名にちなんで お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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