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本読みのひとりごと

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読むこと、書くことが大好きなbiscuitです。
夫、元気すぎる2人の息子と4人暮らし。

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mico@ Re:木々との対話(09/12) bisさん、こんにちは。まずは次男くんのご…
biscuit5750@ Re[1]:さようなら、クウネルくん(01/27) >micoさん お久しぶりです! コメントを…
mico@ Re:さようなら、クウネルくん(01/27) クウネル。新装された表紙を見てお別れし…
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2009.01.23
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カテゴリ:読書日記


ジェネット・ウィンターソン「オレンジだけが果物じゃない」を読む。
邦訳は岸本佐知子。
灯台守の話」でも感じたことだが、
ウィンターソン×岸本佐知子
という組み合わせは、
ナタリア・ギンズブルグ×須賀敦子
と同じくらい幸福な出会いだと思う。
違う文化、違う歴史、違う言語体系で書かれた文章を、これほど魅力的な日本語に置き換えることができるなんて!
どんなに精巧なロボットがつくられても、人工知能が発達しても、人間の知恵がなければ成り立たない仕事のひとつが翻訳だと思う。
いつか、自動筆記マシーンが小説をつづる日がきても、翻訳を彼らにまかせることはできないはずだ。

「オレンジだけが果物じゃない」は、ウィンターソンの自伝的処女作。
主人公ジャネットの母は、あるキリスト教宗派の熱狂的な信者だ。
そんな母親の英才教育を受けて育ったジャネットは、幼くして説教壇に立つまでになる。
教会と家を拠り所に成長してきた彼女の運命は、しかし、初めて恋を知ったことをきっかけに、大きく動きはじめる。

ウィンターソンの語り口は軽快で、ユーモアと知的な皮肉に満ちている。
一方で、はっとするほどの純粋さや、身を切るような繊細さがのぞくこともある。
その想像力は、どんな枠にもとらわれることなく、どこまでも羽ばたいて新しい世界を見せてくれる。
ウィンターソンの作品の大きな魅力のひとつが、ストーリーの合間にふと挿しはさまれる異界の物語や寓話だ。
現実とファンタジーが混ざりあい、折りかさなって、読む者の心に忘れがたい不思議な余韻を残す。

小説の終盤、ウィンターソンは主人公ジャネットにこんなことを語らせている。
「わたしはつねづね考えている。人生で何か大事な選択をするたびに、その人の一部はそこにとどまって、選ばれなかったもう一つの人生を生きつづけるのではないか、と。人によっては発する念がとても強く、まったく違うもう一人の自分をさえ創りだす」

ここから先はわたしの想像だが、ファンタジーとは絵空事ではなく、この現実に並行して存在する、もうひとつの世界なのではないか。
そこには「完璧を求める王子様」や、選ばれなかったもう一人の自分や、魔法つかいだっているかもしれない。
長い人生の中では、その世界の存在が救いになることもままある。
たとえば密室の通気孔のように。高い天井にあけられた天窓のように。新鮮な空気や朝の光をそこから体に取りこんで、現実に立ち向かっていかねばならないときが。
暇つぶしや娯楽としてではない、一種の生命線としてのファンタジーということを、この本を読みながら考えていた。





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Last updated  2009.01.23 11:09:20
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