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カテゴリ:読書日記
ポール・オースターのエッセイ集「トゥルー・ストーリーズ」を読む。 翻訳者の柴田元幸によれば、この本に対応する原書は存在せず、オースターが日本で出版されるエッセイ集のために、みずから目次を組んだのだという。 奇跡のような偶然の一致をあつめた「赤いノートブック」。 オースターが小説を書くようになるまでの日々を描いた「なぜ書くか」「その日暮らし」などが収められている。 オースターは書く。 「昔からずっと、私の夢は唯一、ものを書くことだった。(中略)書くことで生計が立てられるなどと甘い夢を見たことは一度もなかった。書き手になるというのは、医者や政治家になるといった「キャリア選択」とは違う。選ぶというより選ばれるのであって、自分がほかの何にも向いていないのだという事実をひとたび受け入れたら、あとは一生、長く辛い道を歩く覚悟を決めるしかない」 その覚悟と共に、ポール・オースターが旅した道のり、ジェットコースターのような日々。読みながら、ああ、オースターにしてこれほどの時間がかかったのだ、と思う。 日々の糧を得るために駆けずり回り、「聖書的な次元の」不運をくぐり抜けて、「自分がなしとげうると思える仕事をなしとげる機会」にたどり着いたのだ。 * もうひとつ、好きな逸話がある。 幼い日のポール・オースターが、大リーガーのウィリー・メイズに出会う。 サインをもらおうと鉛筆を探すが、ポール少年はもちろん、周りの誰も鉛筆を持っていない。 そのために、ポール少年は大好きな野球選手のサインをもらうことができなかった。 「その夜以来、私はどこへ行くにも鉛筆を持ち歩くようになった。(中略)べつに鉛筆で何かしようという目的があったわけではない。私はただ、備えを怠りたくなかったのだ」。 そして「ポケットに鉛筆があるなら、いつの日かそれを使いたい気持ちに駆られる可能性は大いにある。自分の子供たちに好んで語るとおり、そうやって私は作家になったのである」。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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