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本読みのひとりごと

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読むこと、書くことが大好きなbiscuitです。
夫、元気すぎる2人の息子と4人暮らし。

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biscuit5750@ Re[1]:木々との対話(09/12) >micoさん こんにちは!すっかりご無沙汰…
mico@ Re:木々との対話(09/12) bisさん、こんにちは。まずは次男くんのご…
biscuit5750@ Re[1]:さようなら、クウネルくん(01/27) >micoさん お久しぶりです! コメントを…
mico@ Re:さようなら、クウネルくん(01/27) クウネル。新装された表紙を見てお別れし…
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2009.03.23
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カテゴリ:読書日記
稜線

一日のなかで、その本をひらく時間が、特別なひとときになる読書がある。
あわただしい一日をすごしても、気がかりなことがあっても、ページをめくれば、いつでもその場所へ戻ることができる。
小川洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」も、そんなゆたかな読書の時間を約束してくれる小説だ。



主人公の少年(のちに、リトル・アリョーヒンとよばれることになる)は、バス会社の敷地に置かれた回送バスの中で、8×8のチェック模様に塗られたテーブルに出会う。
そして、マスターとよばれる男にチェスを教わる。
それが、盤下の詩人、リトル・アリョーヒンの伝説のはじまりだった――

小川洋子の小説は、刺繍でひと針ずつ描かれた絵や、気の遠くなるような時間をかけて織り上げられたタペストリーを連想させる。
どんなに短いエピソード、文章、言葉ひとつにも、選びぬかれそこに置かれた理由がある。
それはまるで、リトル・アリョーヒンの指すチェスの一手、一手のようだ。

たとえば、回送バスに迷いこんできた少年に、マスターがある言葉をかける。
物語の全体を通して、少年のチェスを支える大切な役割を果たす言葉だ。
その言葉を最初に見つけたとき、わたしはため息をつかずにはいられなかった。
どれほど注意ぶかい思索の時間の果てに、このごくみじかい言葉がえらばれたのかを思うと、とても読みとばすことができず、一度本を閉じて言葉を胸のなかにひびかせた。

「猫を抱いて象と泳ぐ」は、360ページの長編にもかかわらず、全篇に緊張感が満ち、詩のような美しい文章でつづられている。
中でもきわだっているのは、やはりリトル・アリョーヒンがチェスを指す場面だ。
読者はリトル・アリョーヒンと共におどろき、手に汗をにぎり、盤上で奏でられるハーモニーに耳を澄ませて、深い満足を味わう。
64の正方形の上で、白黒それぞれ16の駒を動かすという「ただそれだけ」のゲームが、こんなにも奥ぶかいものだったなんて、と呆然とせずにはいられない。

物語のつづきを知りたい、早く結果を見たいという読みかたではなく、ページのあいだを、行間を、言葉と言葉のあいだをさまよい、一行読んでは目をつむってその余韻をたのしむ、という読書のよろこびを、最初の一行から最後の一行まで味わうことのできる名著だ。





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Last updated  2009.03.23 13:18:33
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