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カテゴリ:読書日記
「くまにさそわれて散歩に出る。川原に行くのである」 とはじまる、川上弘美の小説「神様」(中公文庫)を再読する。 わが家の主人もくまなので、いろいろと参考になる部分が多く、折に触れて読み返すのである。 しみじみと読み返すうち、この律儀なくまは誰かに似ている、と思う。 うちのくまではない。 誰か、よく知っている人間に似ているような気がする。 本棚を掃除していて、はたと気づく。 なんのことはない、くまは「センセイの鞄」のセンセイに似ているのだ。 川上弘美の小説では、いちばん好きなのが「センセイの鞄」で、二番めが「神様」である。 それで、「センセイの鞄」も久しぶりに読み返すことにする。 明日はくまの奥さんたちと冬眠前の会合があるので、刻んだくるみを混ぜ込んだブラウニーを焼きながら読みはじめる。 数ページ読んだところで、 この小説を、わたしは隅から隅まで、余すところなく、哀しくなるほど好きなのだった。 と思い出す。 さらに読んでゆくと、読書にのめり込んでいくとき特有の身ぶるいがする。 全身の細胞が目をさまし、分子の振動が激しくなり、言葉の中に自分がめり込むような感じになる。 ツキコさんになったつもり、サトルさんの店のカウンターでまぐろ納豆をつまみに一杯飲んでいるつもりで、小説の中をたゆたう。 前に読んだとき、どの場面をいいと思ったか忘れてしまったが、今回は、島でセンセイとツキコさんが「海鳴りや蛸の身のほのかに紅し」と句を読む場面を繰り返し読んだ。 ツキコさんとセンセイがディズニーランドに行くあたりで、オーブンから甘ったるいにおいが流れだしてくる。 物語の主人公が、たとえば二十歳の若者よりはあの世に近い場所にいることを差し引いても、恋の絶頂は、内側に死の気配を孕んでいるように思えてならない。 大まじめに、甘やかに、生のぬくもりと死のにおいの交わるところで息をひそめる。 久しぶりに恋愛小説など読んだせいか、ブラウニーは甘くなりすぎてしまった。 真夜中に、とろりと濃いコーヒーを淹れて、ひとり湯気と一緒にかじる。 半分恋をしているような気持ちのまま、少しずつかじる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.12.10 11:58:50
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