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カテゴリ:読書日記
いよいよ、本格的に雪が降りはじめました。 (写真は裏山のようすです) 積もった雪のゆるむ頃合いを見はからって、雪かきに出発。 友達が贈ってくれた毛糸の帽子にダウンコート、長靴の下にはスキー用のズボンを仕込んで、濡れてもいいように、スキー用の手袋をはめる。 雪かき用の大きなスコップで、雪に埋もれたわが老車を掘り出すこと、40分。 かいたそばからうっすら積もりはじめる雪に白いため息をつきながら、雪まみれの汗だくで凱旋。 当分ジョギングはおあずけだけど、こりゃあ絶好の有酸素運動になりそうだな。とほ。 翌朝以降、両肩から前腕、背中全体をおそうひどい筋肉痛も、もはや冬の風物詩。 苦労のかいあって、懸案だったクリスマスの買い物も何とか済ませることができた。 あとはショウガ入りココアでもつくって、あたたかい部屋の中から、どさどさ降り積もる雪を見守ろうと思います。 明日の雪かきのことは、明日まで忘れることにしよう! 梨木香歩「からくりからくさ」を読む。 何も知らずにたまたま続けて読んだのですが、「りかさん」の続編なのですね、この物語は。 「りかさん」は図書館の児童書棚にあったけれど、「からくりからくさ」は大人むけ小説コーナーに並んでいました。 「りかさん」で提示された世界観が、さらに濃密に、掘り下げて描かれる。 いつもならここで、「からくりからくさ」はこんな設定の、こんなあらすじの小説で…と感想文を書き起こすのですが、あまりに重層的な物語で、いったい何から書けばいいのか、途方にくれてしまう。 ああ、そうだ。「りかさん」というのは、お人形の名前です。 主人公のひとりである蓉子が、幼い日の誕生日におばあさんから贈られた市松人形。 持ちぬし(という言い方はたぶん正しくないが、わかりやすさのためにあえて)の少女と、心を通じることができる。 と書くと、反射的に「こわい」と感じる方がいるかもしれない。 でもね、りかさんはこわくない。 お人形遊びをしたことのある女の子(や男の子)なら、なつかしくて少し切ない、やさしい気持ちになれると思う。 「りかさん」にはこわい場面も出てくるけれど、それは人形が持つこわさじゃなく、人の心の闇のおそろしさ。 人形というものは、大切に思った経験が濃密であればあるほど、可愛らしさと同時に、少しこわいものだと思う。 梨木香歩は、そのこわさに背を向けるのでも、申し訳程度に表面をなでるのでも、こわさをクローズアップしてホラーの方に行くのでもない。 誠実に、冷静に、愛を持ってこわさの中心へ入っていき、こわさの核を抱きしめて、自分の一部にしてしまう。 これだけ大きな物語の原石を前にしても、「自分の手には負えないかも」とひるむことなく、勇気と根気づよさをもって、コツコツと掘りすすんでいく。 そして、この物語を通り抜けることで、読者もまた、漠然とした「こわさ」を自分の内に取り込むことができる。 自分の一部になったとき、「こわさ」は既に消えているはず。 それは昇華されて、読み手の魂の深みになる。 そう、それで、「からくりからくさ」です。 蓉子のおばあさんが亡くなって、大人になった蓉子がおばあさんの家にやってくる場面から、物語がはじまる。 女子学生の下宿として使われることになったその家に、りかさんと蓉子を合わせて五人の女性が暮らすことになる。 植物染料を使った染色の修業をしながら、管理人をつとめる蓉子。 鍼灸の勉強のため、日本に来ているマーガレット。 美大で機織を学んでいる与希子と紀久。 おばあさんが手をかけて暮らした古い家に守られ、庭の植物に囲まれて、五人はおだやかな日々を紡いでいく。 ある日、りかさんを手がけた人形師をめぐる、ひとつの謎が投げ込まれたことから、物語の歯車がゆっくりと動きはじめる… 作者の頭の中をちょっとのぞき見る、という類の小説ではなく、一冊の中にひとつの世界が丸ごと収まっているので、読者も物語の扉を開けて、その中へ体ごと入り込むような、稀有な読書体験をすることができます。 読みすすめるごとにどんどん深く入ってしまい、夜がふけてもやめられない。 ときどき、どちらが自分の現実だったかわからなくなって、寝ている家人が息をしているのをたしかめに行っては、安心してまた続きを読む。 物語の大きな流れと、細部の描写。 どちらも魅力的で濃厚すぎて、とても一度に味わうことができない。 一度目は夢中でストーリーを追いかけ、二度目でようやく、落ち着いてディテールを味わうことができた。 染色と織物。 人形と能面。 唐草模様。蛇の神話と、メドゥーサ。 蛾と繭。 それらのモチーフを縦糸に、登場人物それぞれの生きかたを横糸にして、カラフルで濃密な物語が織られてゆく。 著者一流の繊細な心理描写と、たしかな知識に裏打ちされたリアリティが、全編にしっかりと張りめぐらされていて、最後の一行まで集中力がとぎれずに読める。 ラストシーンには胸がつぶれるほどおどろいたけれど、二度目にゆっくり読み返したら、「ああ、これでいいんだな」と心から感じることができた。 満ち足りた気持ちで、本を閉じる。 内容について、そこから考えたことについて、いくつも、いくつでも話したいことがあるけれど、それはまだ「からくりからくさ」に出会っていない幸運な読者の楽しみを奪うことになるので、このあたりで筆を置こうと思います。 女性であること、日常を生きること、それから書くことについても、この本から贈りものをたくさんもらったような気がする。 わたしも自分にとっての機を、日々たゆまずに織ってゆこう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.12.21 09:28:50
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