|
カテゴリ:読書日記
森まゆみ「女三人のシベリア鉄道」を読む。 地域雑誌「谷中・根津・千駄木」で知られる著者が、与謝野晶子、中條(のちに宮本)百合子、林芙美子の旅日記を携え、シベリア鉄道に乗り込む。 時を越えてオーバーラップするシベリア鉄道の旅が、それぞれの作家の人間らしさをあらわしていて、読むほどに味わいぶかい。 夫鉄幹を追いかけて、七人の子どもを日本に残し、単身パリを目指す与謝野晶子の熱情を筆頭に、当時の「書く女」たちはおそろしくエネルギッシュ。 「旅のことを考えると、お金も家も名誉も何もいりません。恋だって私はすててしまいます」と言って、異国の乗客ともボディーランゲージで仲良くなるのは林芙美子。 恋はすててしまうと言ったくせに、日本に夫だってのこしてきたのに、パリに着くや否やちゃっかり恋をしてしまう芙美子さん。どこか可愛くて、にくめない。 山の手のお嬢様そだちの中條百合子と、カフェで女給をしながら書きつづけた芙美子とでは、同じ国を旅して感じることがまるで違うのも面白い。 本書を読みながら思いついて、武田百合子「犬が星見た」も同時並行で再読してみた。 こちらの百合子さんの筆は、天真爛漫、軽妙洒脱。 いつまでも、ずーっと読んでいたくなる文章。 五人の女たちのロシア紀行が、頭のなかで混ざり合う。 お風呂で読むから、ますます頭がぐるぐるする。 作家たちと同じコンパートメントに納まって、ああだこうだと言い合いながら、シベリア鉄道に揺られている気分になる。いい気なもんだ。 サモワールで沸かしたお湯で飲む熱い紅茶は、どんなにか身体をあたためてくれるだろう…などと夢想して、ますますぼーっとなる。 作家の旅日記を読むのが、とても好き。 テーマに沿ってきれいに編集された文章でなく、もっとごちゃごちゃして、作家の頭の中を覗きこめるような、雑多な文章。 見た景色、出会った人、食べたもの、何気ない雑談、乗り物酔いや食あたり、喧嘩。 そういういろいろが全部放り込まれたごった煮こそが旅!という気がする。 紹介されていた林芙美子の旅日記も、取り寄せて読んでみようっと。 「林芙美子紀行集 下駄で歩いた巴里」(岩波文庫) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[読書日記] カテゴリの最新記事
|