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カテゴリ:おしごと日記
雪国に来たころからこつこつと書いていた物語が旅立ってゆく。 一緒にすごした時間が長いほど、その世界や登場人物との別れもつらい。 印刷したぶ厚い原稿を、くまに読んでもらう。 こちらに背中をむけて、こたつで読んでいる顔を何気なくのぞきこんだら、静かに涙をぬぐっていた。 ああ、むくわれた。と思った。 まず、ひとりの人に伝えること。 すべてはそこからはじまる。 * あたらしい仕事にも、少しずつ慣れてきた。 本をどっさり抱えて一日じゅう走りまわるので体は疲れるが、返ってきた本を棚に戻していると、力がわいてくるのを感じる。 棚のすみに埋もれた本を目立つ場所にならべ、テーマを決めポップをつけておすすめする仕事がとても楽しい。 出勤して、おすすめした本が借りられているのを見つけると、スキップしたいような気持ちになる。 図書館って、本を借りたり返したりするだけの場所と思っていたけれど、ほんとうにいろんな仕事がある。 ベテランの先輩は、「のっぽさん」みたいな手つきで、色画用紙やダンボールを切ったり貼ったりして、魔法のように館内を飾りつけてしまう。 ボランティアのおばあさんが絵本の読み聞かせをはじめると、大泣きしていた赤ちゃんがぴたっと静かになる。 あたらしく入ってきた本にクリアカバーをかける作業は、空気が入らないように、息をつめ集中してやるのがコツ。 つとめ先に本があると、出かけるとき本を持たないですむから、かばんが軽くなったのも思わぬ効用。 仕事の休み時間や、終わった後にささっと本を選んで、自分で貸し借りの手続きができるのもうれしい。 家のほかにもうひとつ、自分の本棚があるみたい。 幼いころから何よりも本が好きで、最高にわくわくする場所は図書館だった。 「図書館ではたらく」という選択肢にもっと早く気づけよー! と思春期の自分に突っ込みたくなるけれど、たぶん、これでいいんだろう。 具体的な仕事内容の面でも、抽象的な意味でも、前にやっていたことがむだになっていない、自分の中に生きている感じがする。 くまと暮らして、わたしは以前より、自分がやりたいことをはっきり見きわめられるようになった。 こわい気持ちが消えたわけじゃないけど、失敗してもいいから、好きなことにむかって情熱を注ごうと思える。 帰る場所と自分を結ぶロープが強くて太いほど、人は遠くまで旅ができる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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