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カテゴリ:読書日記
杉崎恒夫さんの第二歌集「パン屋のパンセ」を読む。 (「崎」は右上が「立」) 杉崎さんのことは、友達が教えてくれた歌人・松村由利子さんのブログで知った。 地下駅に季節がふいに目をさます「春は前駅をでました」 星のかけらといわれるぼくがいつどこでかなしみなどを背負ったのだろう ブログで紹介されていた歌を読んで「!」と思い、気になっていたところを、タイミングよく上京の折、書店でじっさいの本を手にとって見ることができた。 どうしても消去できない悲しみの隠しファイルが一個あります 灯台の白い破片が飛びちっているのではない風のかもめら 言葉も、世界観も、すべてが心地よいバランスの中におさまっている。 それでいて、無限の広がりがある。 ひとつひとつの歌から、風景と物語が立ち上がってくる。 長く国立天文台につとめた方なので、宇宙や星にかんする歌も多い。 晴れ上がる銀河宇宙のさびしさはたましいを掛けておく釘がない ペルセウス流星群にのってくるあれは八月の精霊(しょうりょう)たちです 一冊の本を手に入れて、こんなに幸福な気分になったのは、久しぶりかもしれない。 本屋の外はつめたい雨が降っていたのに、本を入れた紙袋から、焼きたてのパンみたいなぬくもりが伝わってくる気がした。 一番はじめに出会ったひとが好きになるペコちゃんだってかまわないもん こんがりと夕焼けベーカリーが焼きあげしクロワッサンを一つください みずみずしくてお茶目なこれらの歌もすべて、70代、80代になってから詠まれたのだそう。 それならば俺はどうなのだ詩人とは少年のままに老いてゆく人 あなたこそ、少年の心をそっと守りつづけた永遠の詩人の名にふさわしい方です、と空にむかってファンレターを飛ばしたい。 杉崎恒夫さんは2009年春、90歳でその生涯を閉じた。 わが胸にぶつかりざまにJe(ジュ)とないた蝉はだれかのたましいかしら お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.06.03 10:28:07
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