|
カテゴリ:旅日記
ふと連休がとれたので、バイトが終わった足で実家へ帰る。 駅舎の中にある図書館を出て、向かいの土産物屋でお菓子を選んでいたら、同僚のおじちゃんが奥の食堂から顔を出して、「お父さんにお土産ならこの豆がいいよ」とすすめてくれた。 わたしと妹が家を出た後、両親は引っ越しをした。 前の家は、気軽に東京へ出られる距離だったけれど、新しい家は、東京から少し遠い海の近く。 東京駅から快速に乗り、対面座席のローカル線に揺られて降り立つ、神社のある町。 枝豆ととうもろこしでビールを飲み、母が作ったいなり寿司を食べる。 この甘みの少ない味、自分で煮るとどうしても出せないのだ。 つくり方をたずねたら、煮汁にめんつゆを混ぜるのだって。 夜、父がじっと窓辺に立っているので「何してるの」と聞いたら、飛行機を見ているという。 空港が近いから、夜になると、一日の仕事を終えた飛行機が集まってくる。 並んで見上げると、たしかに、赤いランプの点滅が次つぎ横切ってゆく。 「飛行機っておもしろい?」とたずねたら、父は笑って答えなかった。 翌日は、少し大きな町へ出て、デパートで買い物をした。 ステンドグラスの店で、銀河をとじこめた、青いペンダントを手に入れる。 こういうのが欲しくて何年も探していたから、うれしい気持ち。 本屋も何軒か行ったけど、荷物が増えるからぐっとがまん。 図書館につとめるようになって、病気がひとつ治った。 それは「本を3冊以上持ち歩かなければ不安」症候群。 万が一、旅の途中で読む本がなくなっても、世界は本であふれており、わたしの行く先にはかならず本がある、と信じられるようになったことがその理由。 いつも持ち歩いている「読みたい本ノート」を広げ、気になった本のタイトルを書きとめておく。 帰ったら、図書館で探そう。 最後の日、丸の内で友達と会う。 人生はつねに動いてとまらない。わたしたちは自分の足でどしどし歩いていかなければならないけれど、こうして曲がり角で待ち合わせて、ごはんを食べたり、お茶を飲んだりする友達がいるのはありがたい。 友達に見送られ、新幹線に乗る。 うとうとして目を開けるたび、車窓の天気が変わっている。 雨が降ったり、黒い雲がたちこめたり、そうかと思うとかんかんに晴れたり。 全部で3回虹を見た。 虹の足もと、田んぼで草刈りする人の姿が蒼く染まって見えた。 降りる駅が近づくにつれ、わくわくして、胸がときめく。 わたしは本当に、この土地が好き。 風のにおい。空のいろ。山の稜線。水の甘さ。虫の声。 いつかここを離れることを思うと、それだけで泣きたいような気持ちになる。 町から町へ、当分は渡り鳥の暮らしだけれど、こんなふうに、泣きたいくらい好きな場所を、この先もたくさん心に持つことができたらいいと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[旅日記] カテゴリの最新記事
|