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テーマ:日々自然観察(9781)
カテゴリ:花と木、葉っぱ
梅が咲いた。 最初の一輪は、「こんな冬にも春が来るんだ」と驚くような思いで見た。 前を通るたび、甘い香りが増してゆくのを、「世界は変わってしまって、もう元の場所には戻れない。この花だって、同じように見えるけれど去年とはちがうのだ」なんて思いながら横目で見ていた。 けれど今朝、春風にさそわれていよいよ満開になった樹の下に立ち、香りを嗅いでミツバチの羽音を聴いたら、自然にほほがゆるみ、歌いだしたいような気持ちになった。 たとえ、世界が変わってしまったのだとしても。 あるいはあの長い揺れと同時に、何かポイント切り替えのようなことが起こって、村上春樹の小説みたいに、月がふたつ浮かぶ世界に放り込まれてしまったのだとしても。 それでもわたしは、春がめぐってくるたび、ぽかんと口を開けて花を見て、何もがまんせずばかみたいに笑っていようと思う。 世界はどうしようもなく美しいし、人生は楽しい。 夏に生まれてくる子供に伝えたいのは、やっぱりそのことだから。 「神谷美恵子日記」(角川文庫)を読む。 「生きがいについて」の巻末に載っていた執筆日記を読んで、もっと彼女の肉声に触れてみたくなった。 読んでおどろく。 あのように清冽な、すっぱりとした文章を綴るひとの内面に、こんなにも長く複雑な葛藤があったのだ。 「女であって同時に『怪物』に生まれついた以上、その特殊性をせい一杯発揮するのが本当だった。男の人の真似をする必要もなければ女の人の真似をする必要もない。かと言って中性で満足しようとする必要もない。傍若無人に自分であろう。女性的な心情も、男性的な知性も、臆病な私も、がむしゃらな野心家の私も、何もかも私の生命に依て燃やしつくそう。」(1944年、30歳の日記より) 女であること。医師であること。妻であること。母であること。 そして彼女の心にたえずわき上がる「書きたい」という情熱。 神谷美恵子の苦しみは、何ひとつあきらめなかったからこその苦しみだ。 自分も彼女のように、最後まで風に帆をたてて航海をつづけることができるだろうか、きっとそうしたい、できるはず。と勇気がわいてくる読書だった。 大切な一冊がまた増えた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.04.10 15:57:18
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