595840 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

本読みのひとりごと

本読みのひとりごと

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Free Space

読むこと、書くことが大好きなbiscuitです。
夫、元気すぎる2人の息子と4人暮らし。

新聞記者を経て、フリーランスライター/エディターに。

Profile

biscuit5750

biscuit5750

Comments

biscuit5750@ Re[1]:木々との対話(09/12) >micoさん こんにちは!すっかりご無沙汰…
mico@ Re:木々との対話(09/12) bisさん、こんにちは。まずは次男くんのご…
biscuit5750@ Re[1]:さようなら、クウネルくん(01/27) >micoさん お久しぶりです! コメントを…
mico@ Re:さようなら、クウネルくん(01/27) クウネル。新装された表紙を見てお別れし…
biscuit5750@ Re[3]:子どもを持つことの不自由と、自由(11/17) >バーソロミューさん お久しぶりです! …

Rakuten Card

Archives

2024.11
2024.10
2024.09
2024.08
2024.07

Category

2013.12.02
XML
カテゴリ:読書日記
IMG_3632.jpg


松家仁之『火山のふもとで』を読む。

美しい小説だ。

豊富な知識と教養に裏打ちされたディテール、
ゆったりと、それでいてめりはりの効いたストーリーテリング、
ノスタルジックな舞台設定、
魅力的な登場人物。

完璧な小説、というものがあるとしたら、まさに本書がそうだろうと思う。
そりゃあそうだ、だってこれは、何よりも小説を愛し、誰よりも長く小説について考え続けてきたであろう松家仁之さんの、満を持したデビュー作だもの。



レンガを積むように、ひとつずつ丁寧に重ねられてゆく細部。
読書の喜びを存分に味わいながら、それぞれの場面に身をまかせている間、読者は自分が経験している細部の意味について気づくことはない。
考えることを忘れさせるほど、文章が美しく豊かなのだ。

あるところまで読みすすめ、読者はふと足を止める。
自分が読んできた一ページずつが、一文の無駄もなく、ひとつのたしかな意思のもとに築かれた精緻で美しい建築物を構成していたのだと気づき、目を見張る。

物語の起承転結は、主人公である若き建築家が「夏の家」で経験する四季の移り変わりと、見事に一致している。
夏が過ぎ、秋が来て、やがて人生の冬を迎えた主人公が、夏の輝きを振り返る描写の美しさは、この小説の白眉だ。
切なくて、ほろ苦く、しかし思いがけないほど豊かな贈りものが用意されている。

編集者としてたくさんの作家を育ててきた著者の、本と物語への愛情は、たとえば老建築家が語る、こんな言葉に現れている。

「ひとりでいられる自由というのは、これはゆるがせにできない大切なものだね。子どもにとっても同じことだ。本を読んでいるあいだは、ふだん属する社会や家族から離れて、本の世界に迎えられる。だから本を読むのは、孤独であって孤独でないんだ。子どもがそのことを自分で発見できたら、生きていくためのひとつのよりどころになるだろう。読書というのは、いや図書館というのは、教会にも似たところがあるんじゃないかね。ひとりで出かけていって、そのまま受けいれられる場所だと考えれば」

読み終わるのが惜しい、いつまでも小説の世界に遊んでいたいと思わせてくれる本との出会いは、そうたびたびあるわけではない。
こんなにも贅沢な読書の時間をプレゼントしてくれた著者に、それから、どこにいるかわからない本の神さまにも、素晴らしい本をありがとうと手を握って感謝したいような気持ち。

さて。
最初のページに戻って、もう一度読み返そう。





読書日記 ブログランキングへ












お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2013.12.03 00:08:12
コメント(0) | コメントを書く
[読書日記] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.
X