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2007.05.07
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カテゴリ:日本の小説
三崎亜記
『となり町戦争』
集英社文庫



地方自治体間で公共事業として遂行される見えない戦争の物語。

この手の作品が好きでないということは自分でもわかっていながら、その話題性と内容の奇抜に惹かれて読んでしまった。結局結論からいうと、やはり好みではなかった。一言で言うと軽薄すぎた。


この手の作品が好きになれないところは、まず、極端な現実味のなさにある。
現実と乖離した内容が問題なのではない。SFやファンタジーは非現実的な素材であるが、私は嫌いではない。ここで言う現実味のなさとは、作品世界の作りこみ不足からくるリアリティーの欠落のことである。
この作品の主人公は「戦争に現実感をいだけないでいる」とのことだが、そもそも「小説の中の戦争の現実」が描けていない。物語を書く際には小説の世界設定の緻密さや人間心理のリアルさももちろん必要だが、小説のモチーフとなっている現実世界の事象を取材しそれを踏まえるのも重要である。本作の場合、町役場の描写についてはその努力が見れたが、戦争や戦争心理については現実のそれとあまりにも乖離しすぎている。小説で書きたい戦争と現実の戦争はもちろん全然違うということは承知しているが、それにしても酷すぎる。それどころか、小説世界での戦争についての描写も一切なかった。戦争をモチーフとしながら、ここまで戦争を描くことを拒絶したのはある意味で賞賛に値する。だが、これでは読者も、「戦争に現実感をいだけないでいる」主人公のいる、小説の中の現実を把握できない。
どれだけ不合理で不条理な話でも上手く描かれてさえいれば、その不合理な世界に納得できる。よくできた小説ならば、小説の主人公が現実感をいだけないでいても、その主人公や彼を取り巻く小説の世界観が読者に伝わるのである。しかし本作品の場合は、筆者も小説世界の中の現実感を想像できないでいたのではないかと疑いたくなってしまった。
もっとも、私の感性が鈍くなりすぎたがゆえに、小説世界の中の現実感を感じられなかったのかも知れない。あるいは、いまどきの小説には、そのようなものはもはや不要なのかもしれない。


次に、そのテーマについてだが、奇抜な内容の作品のわりに案外と古臭い。誤解を恐れずに書くと、となり町との戦争であるという折角の面白いモチーフが生きていなかった。
おそらく中心に据えているのだろう、一般人が無自覚のうちに間接的に戦争へ荷担しているという問題も、取立てて新鮮なテーマではない。特に経済的側面からは、第一次世界大戦や朝鮮戦争の特需のことを思い出せば日本人なら誰でもわかるし、戦争経済学という学問のジャンルもある。また、無自覚のうちに我々が殺戮行為に手を貸しているケースとしては、中国へのODAとチベット弾圧の関係を挙げるとわかりやすいだろう。
戦争の悪として捉えるのではなく、その肯定的な側面もほのめかしているところは、意表を衝くと共に不気味さを煽りたかったのかもしれない。しかし、「たたかひは創造の父、文化の母」という側面は昔から言われていることである。もっとも、戦後の平和教育に洗脳された人にとっては衝撃なのかもしれない。
お役所仕事のクールさや単調さの気味の悪さもこの作品の肝となっている。とはいえ、旧陸軍のお役所的だめっぷりの数々とくれべれば、実に可愛らしいものである。補足して言うと、個々人の運命が行政の歯車に巻き込まれ潰されていくということについても、本作のエピソードはあまりにも矮小である。
これらのテーマを主張したいならば、非現実的なとなり町の戦争というモチーフよりもストレートに戦争そのものを描いたほうが余程効果的であろう。


最後に、本作品全般についての感想を述べると、戦争というものの本質が描けていなかった気がする。平和で満ち足りた環境で、なに不自由なく育った現代日本の若者特有のナイーブさ、ひ弱さ、薄っぺらさ、小奇麗さばかりが目だっていた。世の中に無関心で戦争に対して現実味を持てないでいる若者を扱った作品でありながら、戦争のリアリティーを描けていないので、「戦争に対して現実味を持てないでいる若者」の姿にも危機感が出てこない。これだけ戦争と向き合うことを避けながら戦争を書こうとしたというのは驚異的であり、ある意味では戦後日本の最大傑作かもしれない。
もっとも現代の日本人でも、少し過去の歴史を振り返ったり、海の向こうを眺めれば、生臭い戦争と向き合わざるを得ないのだが。


作品のテーマも他のモチーフを用いたほうがより激烈に伝えられる。そもそも戦争というものを描けていない。しかし、それでもこの作品は大ヒットした。
その要因は、いうまでもなく奇抜な設定にある。ただ、そのオリジナリティーある設定も、描写が不十分で小説の世界観が際立ってもいない。山田悠介の『リアル鬼ごっこ』を読んだときに感じたのと同じ、乱暴さを感じた。アイデアはぴか一で非常に面白かったので、その奇抜な設定のみをショートショートか短編にしていたならば、私も絶賛していた可能性もある。





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Last updated  2012.04.15 08:58:57
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