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分太郎の映画日記

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2007.03.12
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 室生犀星の短編小説「あにいもうと」の最初の映画化。後に大映(成瀬巳喜男監督、1953年)、東宝(今井正監督、1976年)でも映画化されている。
 成瀬版は、森雅之、京マチ子、久我美子が3人兄妹を演じた秀作で、一昨年の成瀬特集上映で見て気に入っていたこともあり、その最初の映画化作品がどのようなものであるか興味があって観に行く。フィルムセンターで開催中の「シリーズ・日本の撮影監督(2)」にて鑑賞(2007/3/10)。
 評価:☆☆☆

 夏の暑い日差しが照りつける多摩川。まだ草深い田舎であったその川沿いでは、堤防工事を請け負う赤座親方(小杉義男)に怒鳴られながら、多数の労働者たちが褌ひとつで働いている。元々怒りっぽい親方の機嫌がさらに悪いのは、女中奉公にでていた長女もん(竹久千恵子)が小畑(大川平八郎)という学生の子を妊娠して家に戻ってきたからだ。家では、腕のよい石工でありながら遊び癖の強い兄の伊之(丸山定夫)が、かなり手酷く口汚く罵っていた。
 翌年の春、小畑が訪ねてきた。母親(英百合子)から、もんが子どもを死産して家を出ていることを聞いた小畑は、親から禁足されていて今頃になって申し訳ないと謝り、父は怒ることなく撫然としながらもその謝罪を受け入れる。しかし、兄の伊之は、帰り道に小畑をつかまえて彼を殴り、自分が小さい頃からどれだけ妹のもんを可愛がってきたのか、また妹が家族の“恥”として疎外されないよう自分が憎まれ役として徹底的に罵ったことを語るのだった。
 しばらくして、もんが、途中で一緒になった妹のさん(堀越節子)とともに家に帰ってくる。水商売が身についている様子に、伊之は再び悪口を並べて妹を罵倒した。もんは、兄が小畑を殴ったことを聞くと激昂し、二人は取っ組み合いの喧嘩になる。しかし、それが互いに無器用な愛情表現であることは、二人とも感じているのであった。

 成瀬版と比べて大きく違うのが、妹のさんをめぐるドラマがないことである。
 たぶん木村版が原作に忠実だと思うが(原作は未読)、成瀬版では、さんは近所の蕎麦屋の息子と恋愛中という設定。ところが、彼の両親は、さんにふしだらな姉がいると交際に反対、彼も養子という立場から逆らうことができず、結局、別な女性と結婚してしまう。ちなみに、木村版ではさんは大学の先生の家で女中をしているが、成瀬版では(時代の違いも大きいとは思うが)看護婦の見習いで、自分から駆け落ちを持ちかけるなど、より自立した女性として造形されている。
 成瀬版では、さんのドラマを描くことで、感応的な欲望に身を任せる姉(演じたのは京マチ子)と、清純な愛を求める妹(演じたのは久我美子)との対比が強調され、戦後の娘の代表的な二つのタイプの生き方が象徴されることになったが、兄と妹(もん)との関係性が希薄になってしまった、表面では罵りあいながらう奥底で通じあう愛情の表現が薄れてしまった感は否めない。木村版の方がシンプルな分、兄妹愛という点ではより味わい深いものにはなっている。
 もう一つ、小畑役について、この木村版の大川平八郎の方が純朴な感じがにじみ出ていて(成瀬版の船越英二は裏で何を考えているのか分からない雰囲気が強い)、もんが兄にいきりたつ(小畑をかばう)気持ちが納得しやすかった。

 さらに、この木村版の大きな特徴は、映画の主題からは外れるが、当時の肉体労働者の様子を描いていることだろう。映画の冒頭、かなりの時間を割いて、機械も大した道具もない当時の堤防工事において、労働者がどんな姿でどんな言葉使いで働いていたのかを映し出している。
 とくに、親方が昼食に網をうってとった魚を焼いて食べるのを羨ましそうに眺める姿や、芋をおかみさん(母親)から差し入れしてもらって喜ぶ様子、また日当を受け取ってからの各自の違いなどは、大変に興味深かった。

 しみじみとした味わいのある佳作。

『兄いもうと』
【製作年】1936年、日本
【製作】P.C.L.
【監督】木村莊十二
【原作】室生犀星
【脚本】江口又吉
【撮影】立花幹也
【音楽】近衛秀麿
【出演】竹久千恵子、丸山定夫、小杉義男、英百合子、堀越節子、大川平八郎





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最終更新日  2007.04.03 15:01:36
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