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カテゴリ:外国映画(アメリカ)
『クィーン』で話題のヘレン・ミレン主演、女ヒットマン(殺し屋)を演じるサスペンス映画。
彼女がアカデミー賞を受賞したが故の緊急公開ということで、東京・池袋のシネマ・ロサにてレイトショーのみ、1週間(2007/4/21~27)の期間限定で上映中。 なお今年6月にDVDがタキ・コーポレーションから発売予定。 『サイレンサー』 評価:☆☆☆ 【あらすじ】(ややネタバレ) 末期のがんに侵された女ヒットマンのローズ(ヘレン・ミレン)は、余命が長くないことを感じ、次の依頼が終わったら、仕事のパートナーで恋人のマイキー(キューバ・グッディング・Jr)と二人で、どこか遠くで余生を送ろうと思っていた。 犯罪組織のボス・クレイトン(スティーヴン・ドーフ)から舞い込んだ依頼は、クレイトン自身の妻ヴィッキー(ヴァネッサ・フェルリト)の暗殺だった。出産間近の妻の不貞を疑ったのだ。 クレイトンの留守に屋敷に侵入し、マイキーは護衛を次々と殺していく。一方、ヴィッキーの元に向かったローズは、いざ銃口を向けた瞬間に彼女が破水するのを見て撃つことができず、自分の手で赤ん坊を取り上げる。そしてマイキーの反対を制止して、ヴィッキーと産まれたばかりのアンソニーを連れ出し、モーテルに旧知の医者を呼び出して産後の処置をさせるのだった。 クレイトンから隠れるように、遠く離れた自然の中に家を構え、奇妙な4人の生活が始まった。2年後のアンソニーの誕生日、死期を悟ったローズは、自分の死後はヴィッキーに従うようにマイキーにお願いする。そして、二人は愛しあい、絶頂の最中にローズは息を引き取る。彼女の死を知ったヴィッキーは、息子の養育と自身の勉強のために街に移ることを提案、マイキーはローズの遺言通りに彼女に従う。 そして数年後、アンソニーを我が息子のように可愛いがるマイキーの元に、ある依頼が舞い込んでくる……。 原題は“SHADOWBOXER”で、ネタ割れせずにラストを暗示する優れたタイトルだと思う。 基本的にはキューバが体を鍛えるためにボクシングに励んでいることに由来する一方、邦題は二人が使っている凶器を示し、物語全体を象徴するものとしては、こちらの方が訴求力はあるだろう(安直という気もするが)。 冒頭に「ヘレン・ミレン主演」と書いたが、あらすじにあるように、始めから終りまで登場するという点ではキューバ・グッディング・Jrが主人公だ。 ヘレンは、キューバの仕事の相棒であり、彼を幼い頃から育てている“母親”でもあり(元相棒の息子という設定)、互いに慰めあう恋人でもある、という間柄。その複雑な関係にある男女を、二人のアカデミー賞俳優(キューバは『ザ・エージェント』で第69回の助演男優賞を受けている)が、情感たっぷりに演じている。 話としては、その関係性をもう少しシンプルにした方が、それぞれのキャラクターに感情移入しやすくなるとは思うが、ローズの死の瞬間の、マイキーのアンビバレントな様々な思いの渦巻きや、その後のマイキーの行動に対する“深み”をもたらすものとして、複雑な関係性は必須なようにも思う。 ただ、この映画で描かれている“男女”関係はどこか変だ。 ローズとマイキーの“恋人”関係は言うに及ばず、白人であるドクの恋人の看護婦はめちゃくちゃ太った(美人とは思えない)黒人だし、クレイトンのそれは完全にSが入っているし、マイキーが最後に請け負った仕事もあれだったし……。 歪んだ性愛というのは完全に監督の指向なのかもしれないが、この辺に抵抗感を覚える人も多いかもしれない。 それにしても、『クィーン』におけるエリザベス女王の演技に感銘を受けたばかりの身には、ヘレンの芸幅の広さには驚嘆するばかりだ。 本作では、淡々と人を殺すだけでなく、大胆な濡れ場も披露するのだから(といっても裸を見せるのはワンシーンのみだが)。 ヘレンとキューバともに、今までいわゆる善人タイプを多く演じてきたと思うが、この二人に、ある意味でイメージとは真逆の殺し屋のタッグを組ませた時点で、本作の成功は半分以上約束されたようなものだ。 映画の前半は、上述のように、ヘレンとキューバの男女関係が中心に、後半は、ヘレンが命がけで助けた(ヘレンの命を受け継いだと言うべき)アンソニーとキューバとの“親子”関係が中心に描写される。 そこに描かれた、断ち切ろうとしても断ち切れずに受け継がれる“宿命”というテーマが(ネタバレになっていたらごめんなさい)、この作品を単なるサスペンス・アクションではなしに、重厚なドラマに昇華させていると思う。 その他の役者では、スティーヴン・ドーフが好演。『ブレイド』など、切れやすい悪者を演じさせると、本当にぴたりとはまる役者だ。“身内”を始末するのに暗殺者を雇う、という設定はちょっとヘンだが、そのおかしさも逆にドーフに当てはまっている。 あとヴィッキーの友人役の女性も印象的だったが、名前がわからない…。 タンゴを中心にしたBGMも、個人的に話の雰囲気にマッチしていて良かったと思う。 『クィーン』でヘレン・ミレンに興味を抱いた人は、彼女の俳優としての力量を知る意味でも、鑑賞されてはいかがだろうか。 『サイレンサー』 SHADOWBOXER 【製作年】2005年、アメリカ 【配給】タキ・コーポレーション 【監督】リー・ダニエルズ 【脚本】ウィリアム・リップズ 【撮影】M・デヴィッド・ミューレン 【音楽】マリオ・グリゴロフ 【出演】キューバ・グッディング・Jr、ヘレン・ミレン、スティーヴン・ドーフ、ヴァネッサ・フェルリト、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、メイシー・グレイ ほか
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